鬼を待つ あさのあつこ

2021年2月20日初版第1刷発行

 

帯封「人を殺してしまったと、首を吊った男の死体が見つかった。しかし、そこから事件が大きく展開、裏にはとんでもない事実が潜んでいた-。悪鬼は人の内に棲む 77万部突破

 超人気『弥勒』シリーズ最新刊!」「いつの時代も、どんな困難に見舞われても、本は、物語は、人を勇気づけ奮い立たせてくれる。私にとっては、あさのあつこという作家と『弥勒』シリーズがそんな存在なのだ。(『解説』より)」

裏表紙「飲み屋で男二人が喧嘩をした。一人は大怪我、殴った男は遁走の果てに首を吊った。町方にすれば“些末な”事件のはずだった。しかし、怪我を負った男が惨殺されたことから事態は大きく展開し、小間物問屋〈遠野屋〉の主・清之介の周囲で闇が蠢く。北町奉行所定町廻り同心の木暮信次郎と岡っ引の伊佐治が辿り着いた衝撃の真相とは―。一気読みのシリーズ第九弾。」

 

シリーズ9作目。

首を吊った菊八に、生前、丸太で頭をかち割られた慶五郎。がその慶五郎が今度は喉を裂かれ五寸釘を首に打ち込まれて殺された。情夫慶五郎と女房おはまによる亭主菊八殺しを首吊りと見せかけた事件と思い込んでいた信次郎が「ちくしょうめが」と呟く。見込みが甘過ぎたと反省した信次郎が伊佐治に次々と指示を出す。一方で呉服屋の大商人八代屋が遠野屋を別邸に呼び、姪のために最高級の紅2点を含めて大きな買い物をする。その姪が茶を出しに清之介の前に現れると清之介は唇と肌に艶があり紅は不要だという。恥ずかしがり屋の姪が席を起つと、八代屋は清之介が考え違いをしておられる、時に持っていれば幸せになれる女がいる、相手を見て商売をしなければいけないと諭され、商いの一面を学ぶ。八代屋が姪を娶わないかと清之介を誘うが、おりんと先代への恩を返し切れていないので寛恕下さいと断る。八代屋は遠野紅を十万両で買うので譲って欲しいと言い出す。清之介の出身地・嵯波藩の紅花を使っていることなどを調べ上げた上でのことだった。これも断ると、大店に逆らう清之介に、強靭で順風満帆でこれまで来ただろうが打たれた経験がない、打たれ打たれ、なお打たれ、それでも折れなかった者だけが残る、清之介は商人に向かないと告げ、清之介は八代屋に礼を述べて退去する。帰り道、亡き妻に瓜二つのおよえが現れる。大店に靡かぬ遠野屋を根元から引き抜こうとする八代屋と酒を酌み交わす武士の悪だくみの会話がなされる。八代屋は遠野屋が商売仲間と始めた2か月に一度の催事を大規模で自ら始めた。一方清之介はおりんが頭から離れず商売に身が入らない。慶五郎が殺された場所は以前慶五郎と関係をもった女の店の裏だった。信次郎は慶五郎のお内儀を調べさせる。清之介は今の段階で遠野紅を欲しがる理由が謎だったが、商売仲間を呼んで八代屋が潰しにかかるのなら覚悟を決めて蛹から蝶に脱皮しようと持ち掛ける。八千屋の姪が清之介に会いたいとの書付を送り、出向くべきではないと頭でわかりながら、おりんと瓜二つの女のことを知りたくて出向く清之介。先に待っていたのはおよえだった。およえは口が利けない。姪が突然来られなくなったことが書きつけに書いてあった。理由は八代屋が殺されたからだった。慶五郎と同じように喉を掻き切られ五寸釘が打ち込まれていた。八代屋の奥座敷で手代から伊佐治と信次郎が話を色々と聞き出すと、息子は店を継ぐには器量不足、姪に良き婿をと考えて遠野屋に声をかけたのに遠野屋が断ったと聞いて驚く二人。姪とおよえを奥座敷に呼ぶと、姪の気持ちをズバリと的中させるとともに奥座敷に戸棚にこしらえた刀架があることから高位な侍が来てもてなしをしていたはずの姪に誰が来ていたのか尋ねる信次郎。そして遂に嵯波のお偉方が来ていたことを聞き出し、それを清之介に告げる。江戸家老沖山頼母が嵯波の紅花を権利を手中に収めていた清之介から奪い、結託した八代屋に采配させようとしていたことを見抜いた信次郎は、清之介がそのことを源庵から聞いて知っていただろうと推測する。そしておはまを洗えと指示し、すぐに伊佐治は動く。長屋からその日の朝おはまが逃げ出すように出ていったが、見張りを頼んでいたことから行き先を訪ね、おはまから菊八を殺したのは自分だと聞かされる。棟梁の慶五郎を殺してしまったのなら首を括って死ねと言ったら本当に菊八が死んでしまったと。息も絶え絶えの源庵が清之介を最後に訪ね、言葉で人を暗殺する術を源庵が授けた相手は、実はおよえで兄が清之介を殺すために飼っていたことを告げると、そこにおよえが突然現れて清之介に刺刀を投げ付けて間一髪のところでかわす。およえは口が利けた。清之介には殺せないと。信次郎が現れて刀を清之介に授けて斬れと命じるが清之介は拒むと、およえは行方を暗ました。慶五郎と八代屋を殺害した慶五郎の奉公人お里を捕まえ、江戸屋敷の沖山頼母を訪ねる信次郎、伊佐治、清之介。信次郎は何故に八代屋を殺したのかと詰め寄り、推測するところを述べよと言われ、財だけでなく政も牛耳ろうとしたからではと告げると、沖山頼母は商人が武士の域に入ることは許されることではないと認めた。もっとも、およえの術にかかって慶五郎や八代屋を殺めた(喉を掻き切り五寸釘を首に打ち込むという手口は、お里が以前勤めていた茶屋まるいちの店で酷い扱いを受けたことを模った手口であることまでは知らなかった。皆が遠野屋に戻ると、姪が押し掛け奉公人となって店から出てきた。信次郎から想いは伝えなければ伝わらないと励まされて八代屋を出て押し掛けてきたと。

 

人は、過去を断ち切ることが本当にできるのか。断ち切って明るい未来へと踏み出すことができるのか。一貫して断ち切ろうとする清之介と、そんなに世の中は甘くないという信次郎との闘いは、これからも、まだまだ続きそうだ。