雲の果(はたて) あさのあつこ

2018年5月30日初版第1刷発行

 

帯封「ぞくり。迸る殺気。縺れ合う闇と炎。木暮信次郎×遠野屋清之介 彼らを知りたくて、ここまできた。殺された女と焼けた帯。病死した男と遺された帯。謎めいた帯の奇妙な繋がりが、因縁の男たちを突き動かす! 待望の『弥勒シリーズ』最新刊」「心に久々宇を抱える同心小暮信次郎 深い闇を抱える商人遠野屋清之介 あさのあつこが放つ江戸の巷の物語『弥勒シリーズ』好評既刊」

 

シリーズ8作目。

阿波屋の隠居の持ち家だった仕舞屋が焼け、腹を刺された女の死体が見つかる。遠野屋の筆頭番頭喜之助が病死する。伊佐治は遠野屋の廉売に行きたいという女房おふじの頼みに応じ清之介を訪ねると、清之介は既に伊佐治のために用意していた。信次郎は帯を解いた状態が死んでいた女の死体から「続くな」と呟く。信次郎の呟きの真意を聞き損ねた伊佐治だったが、調べても女の身元は分からず隠居も既に死んでいることが分かり、謎が深まる中、清之介に鶯色の帯の端切れを託す。すると同じ織の帯が喜之助の部屋の押入れから出てくる。隠居の二代目阿波屋を訪ねる信次郎と伊佐治だが二代目は商売より美人画に興味を持ち絵師に弟子入りする。が才能なく阿波屋に戻る。二代目から見せられた美人画の中に鶯色の帯を締めた若い女がいた。絵師は既に死んでいたが二代目はどうやら死後に掠め取った疑いがある。なぜか。信次郎の捜索が始まる。絵師や阿波屋のお内儀お芳を調べるよう伊佐治に指示する。清之介が帯屋の三郷屋を訪ねると先代なら帯の事がわかるかもと言われ先代に確かめてもらうと羽馬織であることが分かる。北陸にある羽馬藩で山羽繭の糸から織るものだった。喜之助がしまい込んでいた帯を包んだ読売を確認した信次郎は、その読売に羽場藩が山崩れを起して消えてしまったことが書いてあるのを見つける。喜之助と殺された女や絵師に描かれた女が羽場藩で繋がった。お芳が清之介に年1回の催事を見せてもらいたいと願い出る。信次郎は羽馬藩の屋敷に探りを入れ金で勤番する武士を手懐けたところ、刺客に襲われ、清之介に厄介払いを頼む。山羽繭の蛹から出る毒は心の臓を止める物騒な代物で財政難に陥った羽馬藩が阿波屋の隠居やら絵師やら女やらを使って江戸で強盗を働きその口封じで蛹の毒を使ったと見立てる信次郎。お芳が清之介の催事に現れると、お芳は形は女でも心は男だと告げ、清之介に鶯色の帯を見せられると簪で清之介に襲い掛かる。清之介は拳をお芳の鳩尾にめり込ませるが簪で右腕を切られる。すぐに信次郎は清之介の腕を斬り血を吸い出して酒を含ませて毒を殺す。お芳は隠居に育てられた暗殺者だった。仕舞屋で殺されていた女は絵師に描かれてしまったのでお芳が毒で殺した。女は羽場藩の帯を解いてから殺して欲しいとお芳に言って殺されていた。お芳がすべてを話して遠野屋を去ると、自ら切腹して自害した。

 

著者のインタビュー記事を読むと、山羽繭は著者の創作だそうだ。いつもながらの急展開が次から次へと繰り出され、土壇場まで一気に読ませて、信次郎がすべての謎を一気に紐解く。今回もサスペンス的ストーリー展開が冴えている。