2015年11月20日初版第1刷発行
帯封「この苛立ち、この焦燥、この憎悪、この執着。剣呑で歪で異様な気配を纏う、同心信次郎と商人清之介 彼ら中に巣くう何かが江戸に死を手繰り寄せる 今は亡き父と向き合い、息子は冷徹に真実を暴く 疼く、痺れる、突き刺さる、『弥勒シリーズ』最新刊!」「心に虚空を抱える同心木暮信次郎 深い闇を抱える商人遠野屋清之介 宿命に抗う男たちの、生きる哀しみと喜びを描く あさのあつこが放つ江戸の巷の物語『弥勒シリーズ』」
シリーズ6作目。
酒に酔った信次郎が足の悪い老人徳助に斬られて怪我をする。怨みを晴らす、と言ったその下手人は川で死んだ。殺される前に重石をつけられて溺れ死んだ遺体を見て、信次郎は奇異な事件であると感じ、清之介に協力を求め、飲んだ店「若菊」で信次郎の相手をした大橋屋のお内儀お美代の素性を調べてほしいと頼む。信次郎は酒に毒を盛られたのではないかと疑ったが、清之介がお内儀と接触した限りその可能性はなかった。むしろ大橋屋の旦那の清之介を見るねっとりとした眼が気になった。信次郎は怨みを買ったのは自分ではなく親父だと考え直して自らの実家を訪ねて探し物をする。病で死んだと思っていた親父が実は殺されたのではないかと考え始める信次郎。大橋屋が付け火で焼失して旦那もお内儀も焼死する。徳助が20年ぶりに同じ御赦免船で江戸に帰ってきた男から徳助が娘のために島に流れたと話したことを聞いた清之介と伊佐治はそのことを信次郎に伝える。信次郎は自らの父親の遺品を調べる中で韓国語と日本語の混じった紙縒りを見付け、父親が恐らく薬種の抜け荷の取引をしていたこと、そして徳助がその船頭をしていた喜十を殺して島流しにあったこと等の秘密を解き明かす。もっとも全ては信次郎の推測。信次郎が清之介と伊佐治を連れて夜出歩いた晩に7人の刺客が襲い掛かる。清之介が信次郎と伊佐治を守るためにやむなく刀を抜いて刺客を防ぐ。信次郎に刺客を送り込んだ十斗藩江戸家老に信次郎は自らが解き明かした謎を克明に告げる。毒を塗った猪口を信次郎に差し出したのは「若菊」の女将お常で徳助の娘だった。喜十を殺して島流しになっても江戸に戻ったら悠々自適の生活をさせるし娘の面倒も見ると約束した信次郎の父親が約束を果たさなかったために怨みを抱き信次郎に斬りかかってきた、抜け荷商売の片棒を担いだ大橋屋は大繁盛したが、徳助が江戸に戻ってきたことで問題が芽吹き出す、大橋屋とお常の関係に気づいたお美代がお常を泥棒呼ばわりしたことでお美代を殺し大橋屋を自分のものにしようとして、店に火をつけて夫婦ともども死んだことにしようとしたが、大橋屋は家老が匿っていると。そして抜け荷問題は不問に付すので大橋屋だけは差し出すよう求める。そこに大橋屋とお常が出て来て、猪口に毒を塗ったのはお常ではなく、その場に偶然いた徳助で、そんな大それたことを仕出かす徳助をお常と大橋屋が川に突き落とした、徳助が救おうとした娘はお常でなく腹違いの病を抱えた妹だったと告げ、お常は自ら喉を掻き切って自害した。結局信次郎の父親は殺されたわけではなく本当に病死したようだったが、信次郎にはそんなことはもやはどうでもいいことだった。
さて、ついに信次郎の計略にひっかかって刀を抜き、殺しまではしなかったものの、刺客に一太刀浴びせた清之介。次巻以降の清之介に目が離せない。信次郎の“くっくっく”というくぐもった笑い声だけが聞こえてきそうだ。