冬天の昴 あさのあつこ

2014年3月20日初版第1刷発行

 

品川の旅籠の女将「お仙」と信次郎は理無い仲となって5年。お仙は18歳で武士の奥方となったが、28歳のとき夫が女郎屋の遊女と無理心中して女を斬り、自分は切腹して家は取り潰しとなり、後始末で莫大な借金を背負わされたお仙は苦界に身を落とす。10年後、信次郎の近くで若い同心赤田が女郎屋「多福」で相対死した。信次郎はなにかを感じて行方をくらます。同心の起こした事件の責任を取るために上役の南雲新左衛門が切腹するまでの期限は7日。宮原主馬の側女だったおうのは色合わせに独特の才を持ち遠野屋に拾われて貢献していた。おうのは遠野屋と一緒に新しい商売を始めようとした材木商伊勢屋の内儀お登世は除いた方がいい、正気の箍が緩んでいてどこか壊れている眼をしている、厄介な種になる、と清之介に申し出たが、清之介は百も承知だった。信次郎はお仙に昔の夫を知る人物に探りを入れさせ、清之介の前に突然姿を現わして用心棒を引き受けさせる。お登世が清之助を訪ねて清之介が欲しいとしなだれかかる。そこにおうのが分け入りお登世を介抱する。お登世によると伊勢屋の主人が手代の咲蔵とお登世の関係に気づいて咲蔵を殺して庭先に埋めてしまったと。おうのは疲れたお登世を遠野屋の奥で休ませお登世の話をじっくり聞く。また清之介にも遠野屋の商売がうまくいけばいくほど裕福で退屈した眼の肥えたお内儀さん、奥方たちが集まるとそこにやっかみが絡み厄介なことが起きて商売に差しさわりが起きないとも限らないという女の世界への警戒心を持つよう清之介を諭す。そこに信次郎は伊佐治を連れて遠野屋に現れ、清之介に用心棒をしてもらった約束を果たすために2つの心中事件は下手人が他にいて心中に見せかけた事件だと説明する。同心が心中事件を起こして奉行に詰め腹をさせようと企んだ者たちの陰謀だとのからくりを奉行に告げると、奉行は旗本の息子が博打好きで内偵を始めた矢先に今回の同心心中事件が起きたことを信次郎に教えた。死んだ同心赤田の同僚笠木が信次郎から遠野屋に呼ばれ、笠木が赤田を「多福」に誘ったなと問い詰められると、最初は否定した笠木だったが酔った勢いで誘ったことを認めたものの、あんな事件を起こすとは思いも寄らなかったという。すると信次郎は笠木に嘘をつくな、賭博の借金で身動きできなくなって赤田を人身御供に差し出した、と詰め寄ると、笠木は思わずあれ以降一度も屋敷に近づいてないと口を滑らしてしまう。そこにお登世を迎えに伊勢屋の主人が遠野屋に現れて清之介とやり取りしていると、信次郎が突然現れて、伊勢屋の庭を掘らしてもらいたい、咲蔵が殺されて埋められたと聞いたからなどと詰め寄る。ところが庭から死体は出てこない。が伊勢屋からの帰り道、伊佐治と清之介は正体不明の男たちに襲われる。襲った一人は「多福」の奉公人で清之介に取り押さえられ、もう一人は主人の政蔵で、信次郎に取り押さえられた。清之介は信次郎にいつから目星をつけていたのか聞くと、最初に現場を見た時からだと明かす。心中事件を犯した女郎屋がこの日に限って他に客がいなかったこと、血の量が多すぎて誰か他に現場にいたと考えられたこと、そしてその一人とは咲蔵で政蔵の一味であり、殺し屋に金を出していたのが伊勢屋だということを解き明かす。清之介が用心棒と言いながらお登世と一緒に餌に撒いて襲うように仕向けたのかと聞くとあっさり認める信次郎。

 

信次郎の推理が遺憾なく発揮された巻でした。