夜叉桜 あさのあつこ

2007年9月25日初版発行

 

私娼殺害事件が発生。1人の若い女娼が喉を掻き切られて殺害される。2人目の被害者は大年増の娼婦。17歳のおいとは娼婦であることを隠して幼馴染の信三の店で簪を買う。幼馴染に再会するために店に向かう途中、3人目の被害者となる。僅か1か月の間の出来事だった。北定町廻り同心である木暮信次郎と岡っ引きの伊佐治親分は3人目の身元をすぐに割り出し、簪を買った店が遠野屋で被害者は手代の信三と幼なじみであることを突き止める。ところが、ある夜、清之助が何者かに連れ去られてしまい、そのことを告げに、信次郎のもとに信三が駆けこむ。清之介が連れ去られた先は兄の宮原主馬の屋敷だった。兄は清之介を江戸に逃がしてくれた最大の恩人だった。が、今度は、清之助に藩の筆頭家老の今井義孝を暗殺せよと命じる。「あのときの俺は甘かった。父のやっていたことは誤りばかりではないのだ」と言いながら。断る清之介に対して兄は、おりんの仇ともいうべき源庵の名を出す。何と言われようが兄の命に応じない清之介を兄はやむなく遠野屋に帰す。清之介が店に戻る前に再び被害者が出る。今度は女2人に男1人。一人は信次郎が以前に重ねた菊乃だった。茶屋「万夏」の伝蔵に確認すると菊乃は夫の仇討のために江戸に出て来ていた。被害者を確かめにきた男が気になった信次郎は男の跡をつけさせると、先代の養子で黒田屋の商売を発展させた由助だったことが分かる。その日由助や清之介らが商売上の打合せで会うことになっていた。殺害された男は境田伊織。信次郎が伊織の同僚の直助から伊織の事を聞き出すと、伊織は菊乃と出来ていて菊乃の夫を殺し、しかも夜叉のような菊乃から逃れるように出奔した。菊乃は伊織を追いかけて江戸に出て、信次郎と万夏で出会っていた。その時菊乃が酒田の名を呼んだことを覚えていたため信次郎は菊乃の夜叉のような正体を見破っていた。金回りが良くなった伊織が酒を馳走する相手が直助だった。なぜ伊織の金回りが良くなったのか。由助の義母が由助の実母が女郎上がりだと知って由助を愚弄した。加えて足の悪いおいとは死んだと思っていた黒田屋の実の娘が生きていたのを知った由助は、おいとが生きていると義父母が知れば、自分ではなくおいとが全てを継ぐことになってしまう、おいとを殺さねば、と思っていた矢先に伊織と出会い、伊織に金を渡して由助はおいとを殺させた。しかもおいと殺しをごまかすために別の女郎と次々と女郎殺しに手を染めてゆく。4人目の女郎の喉を掻き切った直後に伊織は菊乃に出会って菊乃に殺され菊乃はその場で自害する。

 

3人の被害者を目撃した由助の目を見て、およそ被害者を見る目でないことに気付いた信次郎の眼力が事件の真相に迫っていった。弥勒と夜叉とを対比させ、信次郎こそ夜叉じゃないのか?と思わず思ってしまった。