ブッダは歩む ブッダは語る 本当の釈尊の姿そして宗教のあり方を問う 友岡雅弥

単純なプラス思考が、どれほど精神をむしばむかは、ここ数年、各種の「自己啓発セミナー」が心に与える悪影響についての研究や調査が発表されてきた(略)単純な「プラス思考」「前向き」ーこれらは、人の心を「多幸(euphoria)」状態に落とし込みます。「多幸」についての精神病理学的な分析については、野田正彰さんの名著『戦争と罪責』(岩波新書)を参照してください。この「多幸の罠」に抵抗するのは、今世紀最大の神学者の一人であり、ナチスと戦ったパウルティリッヒが名著『生きる勇気』で示唆したあの姿勢ーそう、「にもかかわらず(trotz)」です。人間の偉大さは、(また彼の場合、宗教の偉大さは)、さまざまなどうしようもない障害がある「にもかかわらず」、生きてゆこうとする意志の瞬間にあると、彼は述べます。

固定的業報因果論と対比する形で論じる因果俱時論(今何をしているかがその人を決める)は説得力があるように思う。そして固定的業報因果論への根源的な批判が縁起説という形でブッダによってなされたという部分もしかりだと思う。