白い人 遠藤周作

昭和35年3月15日発行 平成24年12月5日89刷改版

 

表紙裏「フランス人でありながらナチのゲシュタポの手先となった主人公は、ある日、旧友が同僚から拷問を受けているのを目にする。神のため、苦痛に耐える友。その姿を見て主人公は悪魔的、嗜虐的な行動を取り、己の醜態に酔いしれる(「白い人」)。神父を官憲に売り「キリスト」を試す若きクリスチャン(「黄色い人」)。人間の悪魔性とは何か。神は誰を、何を救いたもうのか。芥川賞受賞。」

 

フランス人の父とドイツ人の母の間に生まれた主人公。彼は生まれつき斜視で、その醜さを父親から嘲笑される。母は厳格なプロテスタントで、禁欲主義を強要される。大学生になった主人公は、ジャックという醜い容貌の神学生と知り合うが激しく対立し、十字架を背負うことで他者の醜さまでも背負っている気になっているジャックが気に食わない。ジャックにはマリーという幼馴染みの彼女がいた。ナチスによる占領が始まると、主人公はナチスの手先になり、拷問の通訳者になる。ある日、ジャックは連行され、主人公自ら拷問する。ところが、ジャックは「キリストは憎悪のためには闘わない」と言い、彼の英雄主義や自己犠牲の陶酔を忌み嫌う。口を割らないジャックの元にマリーを連れて来て、仲間を売らなければマリーの命は助けられないと迫り、すすり泣くジャックは遂に舌を噛み切って自殺する。ジャックの死を知った主人公は、意味がない、意味がない、と繰り返す。自分(主人公)を破壊しない限り意味がないと。ジャックの死をマリーに伝えると、彼女は歌を歌い始め、気が狂う。

 

死して信念を貫いて仲間を裏切らなかったジャックと、悪の主人公は生き延びるという2人が対照的に描かれている。信念に殉じて死んでいくのが正しいのか、醜くても生き残る方が正しいのか。神はどうして悪を野放しにし、信仰ある者を救わないのかという、深くて難しい問題を提起している。