表紙「終わらない物語を読み通す 綴られる恋愛・欲望・信仰・黙過・指嗾、そして殺意。物語の背後にある『拝金主義』と『二枚舌』―。重層的な人間の深層を描き出すロシア文学の金字塔を平易かつ大胆に解説。『四つの層』と『第二の小説』 読者をいざなう二つのカギとは?」
第1話 過剰なる家族
ドフトエスキーが抱えていた二つのトラウマ。1つは17歳のとき父親を殺人によって失っているという事実、もう1つは28歳のときにある反体制的な会合に加わった罪で逮捕され死刑判決を受けたという経験。
物語層における父殺しというテーマでは長男ドミートリが主人公に。象徴層における父殺しのドラマでは無神論者イワンと修道僧アリョーシャが登場し、象徴層における父殺しは必然的に神殺しさらに革命の問題へとリンクしていく。2人の母と影の主人公スメルジャコフの登場など、複雑に織りなす物語の骨子が解説されている。
第2話 神は存在するのか
イワンとアリョーシャの神を巡る対決は、ヴォルテールとライプニッツの思想的対決をなぞるもの。
大審問官の物語(これはいつも良く分からない。イエスの老審問官へのキス、アリョーシャのイワンへのキスは、私はまだ理解できないでいる)
そしてフョードルが何者かにより殺害される。イワンによる黙過は「全人生で最も卑劣な行為」とみなし、それは神の立ち位置であり、イワンの変身を暗示していたのかもしれないと解説する。
第3話 「魂の救い」はあるのか
長男ドミートリー、通称ミーチャは予審において父殺しについて無罪を主張するが、夢の中で回心し神の世界を受け入れ自己犠牲の精神に目覚めて、最後で罪を認める。
ここまでが第1部から第3部まで。この後、第4部が始まるが、登場人物が入れ替わり、第10編でアリョーシカとしか接点がない少年たち(そのうちの一人がコーリャ)が登場。未完の第2の小説はアリョーシカとコーリャが中心となり決定的な意味をもつと著者は分析。
第4話 父殺しの深層
第11篇は再び父殺しの犯人捜しの謎解きが始まり、アリョーシカはイワンに対し、「父を殺したのはあなたじゃない」を繰り返す。カラマーゾフ家の料理人スメルジャコフが真犯人で、イワンはスメルジャコフによる殺人を黙過していた。そのスメルジャコフはイワンに「殺したのはぼくじゃありません、それは、あなたがちゃんとご存じのはずです」と答える。遠まわしに主犯はイワン、あなただと。アリョーシカはイワンに「父を殺したのはあなたじゃない」と言っていたが、著者はこのひと言を「あなたのなかの何かだ」と解釈する。性を封印し十字架上のキリストの苦しみに一体化しようとする去勢派のリーダーとして待望される人間として暗示的に示されているスメルジャコフは神をないがしろにして性を謳歌するフョードルは憎むべき最大の標的。スメルジャコフは神と崇めるイワンの忖度が無に帰することになり、初めて愛と信仰の宿命に遭遇する。
物語層の犯人はスメルジャコフと三兄弟、歴史層の犯人はスメルジャコフ、象徴層ではイワン、では自伝層における父殺し犯は誰なのか。実はドフトエフスキ―だと著者は結論づける。
更に著者はドフトエスキーが書いていない第2の小説の内容を想像する。カラコーゾフによる皇帝暗殺未遂事件がメインプロットになるという仮説を立てながら。