秋霜 葉室麟

平成31年4月20日初版第1刷発行

 

裏表紙「一揆から三年、豊後羽根藩の欅屋敷で孤児を見守る女・楓の許に、謎の男・草薙小平太が訪れる。彼には楓の元夫で、大功を挙げた後、藩主の旧悪を難じ上意討ちに遭った前家老・多聞隼人と因縁があった。やがて羽根藩の改易を目論む幕府の巡見使来羽の時が迫る中、藩が隠蔽した旧悪を楓たちには藩の魔の手が…。人を想う心を謳い上げる、感涙の羽根藩シリーズ第四弾!」

 

第3作目の「春雷」の続編ともいうべき作品。主たる登場人物はそのまま維持されている。前作で信念に殉じて死んでいった多聞隼人の生き様を、その後に残された人たちが、隼人と同じく信念に殉じていく人間群と、真逆の人間群とに書き分けていくので、本作は第3作と一体となっているとも言ってよいように思う。

その上で本作の主人公は、欅屋敷に突如現れた草薙小平太である。血のつながった父は、前作で隼人に斬られた白木立斎である。立斎は自らの子を宿した側妾の梶を弟子の草薙伊兵衛に押し付け、10歳の頃になると自分の顔が似ていないことに気付いて立斎から押し付けれられたことを確信する。儒学者として世に出ようと懸命に努力をしてきた伊兵衛だったが、世間から蔑まれる立場に追いやられて自暴自棄になり、梶と小平太とは一緒に暮らすものの、疫病神と呼んで恨み続け、酒に溺れる生活を続けていた。そんな小平太は密命を帯びて欅屋敷に紹介状を持って訪れ、身寄りのない子供たちの面倒をおりうと共に見ていた欅のところに現れる。欅屋敷には前作にも登場した大酒飲みの学者・臥雲が子どもたちに学問を教えている。同じく前作に登場した修験者の玄鬼坊も時々屋敷に顔を出す。小平太は屋敷で下男のように力仕事を引き受けでもこなし、次第に楓をはじめ、子どもたちとも気心が通う。いつしか楓のためには何でもしようという思いに至り、密に恋心を抱く。

前作で隼人の直訴の結果、当時の藩主兼清は隠居するが、巡見使が藩入りすることとなり、自らの失策が明るみに出ることを恐れた兼清は、関係者の口止めを画策し、家老の兵衛にそれを命じ、小平太もそのために欅屋敷に送り込まれる。欅屋敷では幼子の誘拐事件が起きるなど、欅やおりう、臥雲だけでなく、子どもたち全員の口封じをするために次々と事件が起きるが、小平太や臥雲、玄鬼坊、そして成長した子どもたちの機転によって次々と難局をしのいでいく。そして遂に江戸幕府から巡見使が羽根藩に向かう話が伝わると、事態は風雲急を告げ、楓や子どもたちは何とか羽根藩を逃れて行こうとし、その時間稼ぎのために臥雲一人が犠牲となる。そして小平太は前藩主兼清を斬る。それは藩存続のために家老の兵衛の決断でもあった。そのことを知ったお付きの佐十郎は兵衛に対して「旦那様は、まことに厳しきお覚悟をされておられます。されど、羽根藩のため、これからもなさねばならぬことが おありだと存じます。大殿を殺めたのはそれがしということにしてはいただけませぬか」というものの、兵衛は「わしがさような誤魔化しが嫌いであることは知っておろう。秋霜のごとく、ひとに苛烈にあたるからには、おのれにも厳しくあらねばなるまい。遅れれば未練が増す。介錯を頼むぞ」と言って切腹する。藩主兼光の嫡男が誕生したことで恩赦となった小平太は一度は死ぬ覚悟をしたものの、欅と再会し、共に生きていく覚悟を決める。

形は違えど、隼人の志を受け継いだ人物が後に残ったことで救われた思いを抱いた読者は多いと思う。解説では『蜘蛛の糸』のように地獄から天国に至るために御仏が垂らした救いの糸であるという譬えを引いている。なるほどなあ、と思った。