神殺しの日本 反時代的密語 梅原猛

2006年9月30日第1刷発行

 

帯封「このままでは滅びる 靖国、道徳の崩壊 民主主義の腐敗 近代日本は二度、神を殺した」「理性の復讐招く靖国参拝/神は二度死んだ/民主主義道徳の創造/ムツゴロウは復讐する/日本の伝統とは何か/プラトンの憂慮/道徳を忘れた仏教/二種廻向と親鸞/怨霊を志願した人間/なぜ、縄文文化か〈目次から〉◎自伝『大いなる知に導かれて』収録」

 

Ⅰ 神殺しの日本 反時代的密語

・天台本覚論は動物ばかりか植物すらすべての生きとし生けるものに仏の性があり、それらはやがて仏になれるという思想である。この思想こそ、約1万三千年前に農耕文明が起こる以前の狩猟・採集時代の人類の普遍的な哲学であったと思う。

・私は税金というものは義務化された布施であると考える。

・今、日本の道徳は衰え、このままでは日本は精神的に再び亡国への道を行かざるを得ないと憂えているのは私一人ではあるまい。仏教者は仏教がすぐれた教えであることを語る前に、まず自らの生活において十善戒を守り、六波羅蜜の徳を実践しているかを心に深く問うべきではないかと私は思う。

西田幾多郎は東アジア文明を無の文明として有の文明である西洋文明に対峙させる。和辻哲郎は『風土』において日本及び中国などを含むユーラシア大陸の東の文明をモンスーン型の文明として、インドなどを含むユーラシア大陸中央部の砂漠型文明と、西アジアから西ヨーロッパを含むユーラシア大陸の西の牧場型文明と対比する。私は、人類は農業を発明することによって都市文明を創ったと考えるが、その農業の性質がユーラシア大陸の東と西では違う。夏に雨の多い東のモンスーン地帯には稲作農業が、雨の少ない西には小麦農業が興った。気候の違いが農業の違いになり、それが東と西の文明の決定的な違いになる。

縄文文化は日本の基層文化である。アイヌ文化は琉球文化とともに縄文文化の遺文化である。このような共存の思想こそ二十一世紀以降の人類が帰るべき思想である。

 

Ⅱ 大いなる知に導かれて

・父はトヨタ自動車の技術部長、常務。退職後、トヨタ中央研究所の所長を務めた。東海中学時代に川端康成に出会い理科志望から文科志望に変わった。高等学校に入ると好みは文学から哲学に変わり、大学に入ると実存主義にかぶれた。八高に入学したが徴兵猶予が撤廃され勤労奉仕に駆り出された。戦後、京大文学部哲学科に復学し、ハイデッガーの『存在と時間』を熱心に読んだ。結婚後、龍谷大学文学部に専任講師として就職したが、食べていけず山元先生に招かれて立命館大学の専任講師となった。『美と宗教の発見』では、古今集を再評価し、空海を発見したところに特徴がある。『地獄の思想』では仏教において地獄の思想がどのように形成されたか、その思想が文学にどのように表われたかを論じた。古代三部作『神々の流竄』『隠された十字架 法隆寺論』『水底の歌 柿本人麻呂』を仕上げた後、京都市立芸術大学美術学部から誘われ、49歳で学長に選ばれた。中曾根康弘首相の鶴の一声で懸案だった国際日本文化研究センターがスタートし所長に就任し、よい学者集めを始めた。日本ペンクラブ第13代会長として諫早湾に関する声明を出した。ものづくり大学の総長を引き受けた。まだ仕事は半分残っている。