再発見 日本の哲学 北一輝―国家と進化 嘉戸一将

2009年7月10日第1刷発行

 

目次

はじめに

第一章 国体論批判と理想の国家

第一節 国体論と北一輝

第二節 明治憲法体制をめぐって

第三節「純正社会主義」の目指すもの

第四節 道徳と科学主義

第五節 「神類」とは何者か

第二章 理想の国家とは何か

 第一節 進化論の意味するもの

第二節 実在する人格としての国家

第三節 有機体としての国家と精神

第四節 北一輝プラトン

第三章 北一輝と革命

 第一節 北一輝と戦後改革

 第二節 北一輝における天皇

第三節 平等はいかにして実現されるのか

第四節 絶対者をめぐって

むすび

 

「はじめに」と「むすび」を要約すると、次のようなものだ。ここに本書のエキスが詰まっている。

裏表紙「たしかに社会主義革命の方法論の次元では、北の国家論は大きく『転回』している。しかし、果たして、革命の方法論上の『転回』は、思想的な断絶を意味するのだろうか。この点で興味深いのは、当時の内務省による北の評価である。警察は北の前半生を社会主義者として、後半生を過激な国家社会主義者として監視していた。ところが、内務省は北を転向したとは見ていなかった。内務省の公文書に記された北の思想は、一貫したものだったのだ-本書より」

 

北一輝昭和11年二・二六事件の、蹶起将校たちの思想的指導者として知られる。彼は若い頃、主著『国家論及び純正社会主義』を自費出版し、普通選挙制度の導入と議会による社会主義革命を主張。1911年上海に渡ったのを機に、軍隊主導の暴力革命を唱える。これを左から右への「転回」と捉え、思想的な断絶を指摘するのが、従来の北一輝論であったが、本書では、この思想的断絶を認めない。先の主著では、「国家人格実在論」なるものが主張され、国家は、物理的に実在する法人格であり、進化するべきものであった、つまり国家論と進化論が接合されたところに、北の思想的本質があった。この国家が進化するという思想は、近代日本の根底を支えた思想でもある。北一輝を読み直すことは、近代日本に通奏低音としてながれていた国家論の系譜を読み直すことでもあるのだ。

結局、北が導き出したのは、「神類」への進化を待つのではなく、彼自身が神仏となり、彼の国家炉を真理として保証し人々にはその真理をただ信じ忠実に実行せよと命じるという結論だった。だが、彼を読むことは、彼の国家論が何であったかを考えることではなく、果たして現代が彼と異なる仕方で国家について考えることができるようになったのか試されることだと言ってよい、とする。