から騒ぎ Much Ado About Nothing ウィリアム・シェイクスピア 小田島雄志訳

1983年10月10日第1刷発行 2019年2月25日第20刷発行

 

メシーナの知事レオナートの邸宅に到着したドン・ペドロ公の配下の一人である若い貴族のベネディックは、レオナートの姪ベアトリスに再会するが、やたらと激しく口喧嘩をする。もう一人の配下の一人である若い貴族のクローディオは、レオナートの娘ヒーローに一目惚れ。アラゴンの領主ドン・ペドロは、仮面舞踏会でクローディオの代わりにヒーローを口説き、成功する。ところが、ペドロの腹違いの弟ドン・ジョンとその従者ボラチオは、策を弄して、ヒーローはふしだらだなどと嘘をでっちあげて破談させようとする。

他方、口喧嘩ばかりのベネディックとベアトリスも、相手が自分を愛しているように互いを思わせようとしたドン・ペドロの作戦が見事に決まり相思相愛の関係に発展していく。

ベネディクトとヒーローの婚礼の前夜、ヒーローの家の窓近くで、ボラチオに好意を寄せるヒーローの侍女マーガレットがヒーローの代役を演じてボラチオと逢引をしている姿を、クローディオとペドロの二人に、夜中、庭先で目撃させる。すると二人はヒーローがクローディオ以外の男と逢引をしていると完全に勘違いをして怒り心頭に達する。

婚礼の当日、クローディオはヒーローの猛々しい淫蕩ぶりを暴き、聞くに堪えない暴言を聞かされた新婦はその場で倒れてしまう。父のレオナートは娘の穢れを雪ぎ落すにはこのまま死んでゆくがよいと叫ぶ。修道士は濡れ衣を着せられたのではないかと考え、ヒーローが死んでしまったことにしようと提案する。

ベアトリスはベネディクトに、私を愛しているならば、ヒーローをなぶり殺しにしたクローディオを殺せと命じ、ベネディクトはクローディオと決闘することを決意。ベネディクトからクローディオに決闘を申し込むとクロ―ディオがこれを受けてしまったため舞台の緊迫感が最高潮に達する。そのとき、逮捕されたボラチオ達がドン・ジョンと悪だくみを諮っていた場面でのやり取りを聞いてしまった夜警が裁きの場ですべて証言し、それをペドロとクローディオの前に現れて証言したことで、一連の悪だくみが露見する。娘の潔白を知ったレオナートは、死んでしまった娘の潔白を晴らすために、明日、再びペドロとクローディオらに一同集まって欲しいと要望する。

レオナート邸に仮面を被って一同勢ぞろい。ヒーローも仮面を被って登場し、ヒーローの冤罪が晴れたところで、ペドロとクローディオの前で仮面を外してヒーローが登場し、“名誉を汚されたヒーローは死に、私は貞潔な娘のまま生きています”と宣言。立て続けにベネディクトとベアトリスも口喧嘩をしながら結ばれ、ここに二組の夫婦が誕生する。めでたしめでたし。というお話。

ストーリー展開もさることながら、軽妙なダジャレのような言葉が次から次へと繰り出される翻訳家の小田島雄志さんの翻訳力が凄いですね。

 ちなみに巻末の村上淑郎氏の解説によると、Nothingとnotingは発音はほとんど同じで語呂合わせがあることから、「から騒ぎ」は「気づくこと」をめぐる騒ぎであるとアメリカの学者ホワイトは結論づけたという事を紹介している。また恋の骨折り損ではなく恋の骨折り甲斐ともいうべき喜劇であるとも。翻訳者は本作が二組の若い男女が成長していくさまに「円熟した喜劇」とする理由を見出していたそうである。結構深いんですね。