三四郎〈上〉 夏目漱石

2021年9月10日第1版第1刷発行

 

名古屋で汽車を降りた三四郎は、一緒に乗り合わせた女から、宿屋への案内を頼まれ、しかも間違って一枚の蒲団が敷かれた相部屋に通されたが、蒲団の真ん中に仕切りを拵えて寝た。三四郎は別れ際、ただ一言「さよなら」というと、女は顔をじっとながめた後、おちついた調子で「貴方はよっぽど度胸のない方ですね」と言って笑った。翌朝、三四郎は汽車に再び乗車し、ベーコンの論文集を広げて昨夜のおさらいをした。未来のことを考えて元気を回復した。筋向こうの男は中学校の先生のようだった。男は「いくら日露戦争に勝って一等国になってもだめですね」と言い、三四郎が「これからは日本もだんだん発展するでしょう」と弁護しても、男はすました顔で「滅びるね」と言った。東京に着いた三四郎は東京の大きさと人の多さに辟易した。母の言いつけ通り理科大学の教師野々宮宗八を訪ねた。野々村に大学の案内をしてもらった。池のほとりで一人の女性を見た。9月から学年が始まった。三四郎は佐々木与次郎と友人になった。野々宮の妹が入院先の病院から兄に電報を出し、急いで野々宮は見舞いに行った。代わりに野々宮の部屋に三四郎が泊まった。野々宮の部屋の奥で女の轢死体が見つかった。三四郎は野々宮から頼まれて妹の病院に品物を届けに行った。三四郎は病室の出口で池で出会った女性とすれ違った。帰り道で与次郎と会い英語の教師の広田先生を紹介された。広田の引っ越しが見つかると、そこに里見美穪子が訪ねてきた。三四郎は美禰子とは3回目だった。2人は広田の部屋の掃除をした。そこへ美穪子は雲に見とれていた。そこに与次郎も合流した。与次郎は広田を何でも読んでいるのにちっとも光らない偉大なる暗闇だと評した。美穪子が持ってきたバスケットにサンドイッチが入っていた。そこに宗八も帰って来た。与次郎は広田家の2階に居候するつもりでいた。迷子をどう英訳するかという話題になり、美穪子はストレイシープと答える。三四郎は講義中にノートにストレイシープとむやみに書き続けていた。与次郎は三四郎に文壇が急転直下の勢いで目覚ましい革命を受けており、文学の新機運は日本の全社会の活動に影響せねばならないと演説ぶった。野々宮は下宿することになり、よし子は里見家に居候することになった。