三四郎〈下〉 夏目漱石

2021年9月10日第1版第1刷発行

 

三四郎は別段の用事はなかったが、広田先生に会いに行く。与次郎に20円を貸していて、期限が来た訳でもないが、広田先生の与次郎という人物の見立てを聞くと、心配になった。広田先生から結婚の予定を聞かれ、母親の言うことはなるべく聞いてあげるのがよいと助言される。そして昔の偽善者に対し今は露悪者ばかりだなどと哲学の煙を吐かれた。そんな折、与次郎が原口と一緒に戻ってきた。原口は美彌子が団扇をかざしている構図で絵を書こうとしていた。三四郎は美彌子の家に行った。二人で西洋館まで行くと、美穪子は預金通帳と印形を三四郎に渡し、30円を渡された。原口がくれた招待券があるので絵画展に三四郎を誘った。そこで野々宮と鉢合わせた。三四郎は美彌子が野々宮を愚弄していると言う。精養軒の会で、自然科学の話や絵画の話、小説の話を聞かされた。三四郎は与次郎から美穪子に惚れているのかと聞かれ、分からないと答える。三四郎が郷里に手紙を送ると、里から直接野々宮に金が送られた。三四郎は与次郎からハスバンドになれるかと聞かれると、首を傾け、与次郎は野々宮ならなれると言う。香水を買いに来た美穪子と野々宮よし子に偶然出会い、品定めを任され、三四郎ヘリオトロープを選ぶ。野々宮から30円を受け取った三四郎は美彌子に30円を返しに行く。原口のアトリエを訪ね、モデルをしている美穪子に、金を返すと伝えた。美穪子は疲れた表情をして、原口に帰された。帰り道で、三四郎は、金はどうでもよく、会いに来たと告げた。そこに車を乗り付けた男が現れて、美穪子を車に乗せてどこかに去って行った。与次郎は演芸会のチケットを売りさばいていた。演芸会に行きハムレットが上演されているのを見た三四郎だったが、翌日風邪をひいて休んだ。与次郎が訪ねて、美穪子の縁談が纏まったようだと聞かされた。相手は野々宮でないと言う。インフルエンザに罹った三四郎だったが、よし子が訪ねてきて美彌子の縁談が決まったと言った。相手は、以前よし子を貰うと言った男だということだった。回復後、美穪子宅へ行くと、教会に行って不在だった。教会の扉が開き、終わりから4番目に美彌子が出て来て、金を返そうとすると、美穪子はそれを受け取って、かつて三四郎が選んだヘリオトロープの香水を含んだハンカチを差し出した。「結婚なさるそうですね」と三四郎が問うと、美穪子は「ご存じなの」と、聞きかねるほどのため息をかすかにもらした。丹青会の一室の正面に完成した原口の絵がかけられた。「森の女」と題された絵について、三四郎は「森の女という題が悪い」と言うと、「じゃ、なんとすればよいんだ」と与次郎から尋ねられ、三四郎はなんとも答えなかったが、ただ口の中で「迷羊、迷羊」と繰り返した。