世界の名著61 トインビー 歴史の研究 責任篇集:蝋山政道 長谷川松治訳

昭和42年6月20日初版発行 昭和57年4月30日18刷発行

 

付録として「文明史からの証言〈対談〉松田智雄・蝋山政道」が添付されている。

 満州事件のときにカルタゴの運命になるとのトインビーの言は、トインビーの歴史家としての史観から生まれている。当時の日本人は日本しか考えない。全体の国際関係は忘れてしまう。長い歴史の発展、そこに流れている動向を見通して洞察を下すトインビーの炯眼は流石と思う。西洋中心主義史観を否定しながら世界史全体の歴史の見方を確立しなければならないというのがトインビーの主張。

 

目次

トインビー史学と現代の課題 蠟山政道

歴史の研究

第一篇 序論

第一章 歴史研究の単位

第二章 文明の比較研究

第三章 文明の比較可能性

第二篇 文明の発生

第一章 問題と従来の解答の誤り 

第二章 挑戦と応戦

第三篇 文明の成長

第一章 発育停止文明

第二章 文明の成長の性質

第三章 成長の分析

第四章 成長による分化

第四篇 文明の衰退

第一章 問題の性質

第二章 決定論的解答

第三章 環境を支配する力の喪失

第四章 自己決定の能力の減退

第五篇 文明の解体

第一章 解体の性質

第二章 社会体の分裂

第三章 魂の分裂

第四章 解体期の社会と個人との関係

第五章 解体のリズム

第六章 解体による標準化

第六篇 世界国家

第一章 目的か手段か

第二章 不死の幻影

第三章 だれのために

第七篇 世界教会

第一章 癌としての教会

第二章 さなぎとしての教会

第三章 高次の種の社会としての教会

第四章 人間社会と「神の国

第八篇 英雄時代

第一章 社会的堰堤

第二章 圧力の増大

第三章 大洪水とその結果

第四章 空想と現実

第九篇 文明の空間的接触

第一章 研究領域の拡大

第二章 同時代文明の遭遇

第三章 同時代文明遭遇の結果

第十篇 文明の時間的接触

ルネサンスの概念

第十一篇 歴史における法則と自由

第一章 問題

第二章 人間生活の「自然の法則」への服従

第三章 神の法則

第十二篇 西欧文明の前途

第一章 この探究の必要性

第二章 技術・戦争・政府

第三章 技術・階級闘争・雇用

第十三篇 むすび

本書執筆の動機

篇者注記 表I~V

底本との対照表

年譜

索引

口絵 パルミラの列柱大通り

 

上下二段574頁にわたる本書が出来上がる経過は冒頭の蝋山氏の記述に詳しい。トインビーの「歴史の研究」全十巻を約6分の1に圧縮したサマヴェル縮刷版(第1巻から第6巻まで分冊第1巻、第7巻から第10巻まで分冊第2巻)を、半分程度に縮めたのが本書である。

第二次大戦の前の6巻と後の4巻でトインビー自身の歴史観に怒った変化が起こる。インドの宗教に排他性がないため、唯一無二の主張より真理に近いと考え、世界的ないし全人類的立場に到達した。

歴史研究の単位として国家単位ではなく文明または文明圏を選び、挑戦と応戦、遭遇、創造的少数者、支配的少数者、創造的個人、内的プロレタリアートと外的プロレタリアート、世界国家、世界教会の基本的用語について解説がなされている。

世界国家は広く文明世界に平和と安全をもたらしたことによって、世界宗教は広く布教する地盤を作り出す。トインビーは今後全世界が緊密になればなるほど偉大な宗教のあいだで競争関係が生まれ個人個人にとっては選択の対象がさらに多くなることを予想している。

本文「歴史の研究」は目次の中から興味を引いた箇所を拾い読みしただけで終わってしまった。いつかゆっくりと読書三昧が可能になったときにじっくり味わってみたいと思う。