深川恋物語《上》 宇江佐真理

2019年6月10日発行

 

「下駄屋おけい」

木綿の反物を扱う太物屋「伊豆屋」の明るく活発な長女おけいは、何より「下駄清」の彦七がつくる下駄が大好きで、下駄清の長男巳之吉に恋心を抱いていた。両親が決めてきた履物問屋の甲子屋の縁談を一度は承知したおけいだったが、巳之吉が作った下駄が彦七の下駄と劣らず良い出来であることを知り、縁談を断って巳之吉と所帯を持つ。

 

「がらくた橋は渡らない」

花火職人の信次は、好き合っていたおてるの母親の薬代が嵩み、支えることが出来なかった。おてるは20も年上の商家の隠居の世話になることを決め、別れ話を信次に切り出した。しかし未練が信次を苦しめ、懐に匕首をしのばせておてるの住む裏店を訪ねるが、留守だった。雪の中、隣の旦那から声を掛けられ、暖かい家の中に入れてもらうと、そこは錺職人の仕事場でもあった。温かいうどんのもてなしを受けた後、おてるのことで自棄になっている信次は厳しく叱られた。以前とび職で女にもてた男を面白く思わない男たちから因縁をつけられて半身不随にさせられた。荒んだ男を女房は錺職人の父親の下に連れて行き、苦労して仕事を覚えさせた。しかし生活はできなかった。そんな男を支えようと女房は足代を稼ぐために超えてはいけないがらくた橋を越えて地獄に向かおうとした時、男は渡るなと怒鳴ったという昔話を聞かせた。2人の話を聞いて信次の憎しみの心は消えて行く。帰り際、おてるとすれ違うが、互いに眼を見つめ合って別れていった。

 

「凧、凧、揚がれ」

西瓜の凧を揚げたいと、凧師の末松に凧作りを習いに来るおゆい。男の子供達に交じって一生懸命頑張った。西瓜の絵を描いて末松に渡したのが最後だった。身体が丈夫でないおゆいはひっそり息を引き取っていた。末松はおゆうに代わって西瓜の凧を作ろうとしていた。おゆいは熱を出して外を歩ける状態ではなかったと聞いて、あれは誰だったのか?と思いつつ、西瓜凧を見事にあげる。