黙示《中》 真山仁

2020年11月20日発行

 

第三章

秋田一恵は、農薬と代田に興味を抱き、代田の福島での養蜂教室に参加して代田の率直な人柄を評価した。CSR室長を命じられた平井は満員バス電車通勤を始め、そこでFPの結城さおりを知る。食料戦略室の辞令を受けた秋田は各省の枠を外して活動し始めた矢先、“くらしの党”党首の早乙女麗子から有無を言わさず呼び出される。早乙女の部屋からGMOの開発を進めるアメリカの研究所からの来客が帰るところと出くわした秋田は、食の安全と農業振興についてのシンポのコーディネーターをするよう求められる。平井はCSR推進会議で社長の提案であってもピンポイントの安全性を改めて訴えるとの主張は社会に誤解を招くとして反対し何とか理解を得る。また平井を安全の顔にしたイベントを開催することも検討課題に上がる。更に代田と平井対談を実現してはどうかとの意見も出る。代田の周囲には中途半端な知恵で農薬の危険を煽る土屋宏美がミツバチレスキュー隊の広報担当と聞き、代田は心配になっていたところに、代田と平井との対談が決まったとの連絡が入る。

第四章 試練の時

戦場で悲惨な子供達の中に見る笑顔の写真を撮り続けた代田は、戦場で国境なき医師団の一員として活動する女性と結婚した後、帰国してミツバチレスキュー隊の活動を続け、平井との対談に臨んだ。代田はその直前にホームページを立ち上げた土屋の家を訪れて内容を確認すると、予想通り過激な内容だったためにため息を漏らす。結城のイベントに参加した平井だったが、家の犬にノミ対策のスプレーにピンポイントが含まれていたため息子が再び痙攣を起こし病院に運ばれる。早乙女に呼び付けられた秋田は昨夜徹夜して作成した資料を貶される。早乙女の狙いは農薬叩きだが、そんなものに農水省が乗ることはできない。GMO日本導入を目指すアメリカのロビイストが早乙女を使って農薬の恐怖を煽りGMO導入を画策する意図が見え隠れしていた。早乙女の秋田への八つ当たりを救ってくれた課長からは農業コンビナート構想の資料を渡される。代田と平井の対談の当日を迎える。平井は直前に奈良橋専務からアイダホにこれから向かうと聞き、ピンポイントの商品としての寿命を尋ねられる。気になる質問だったが5年から10年は通用すると答える。代田と平井の対談は予定通り月刊誌の編集者の司会で始まり、平井は自らの立場で、代田は反対の立場で淡々と述べる。最終盤に差掛かったところで、昨晩の事件を聞き付けて本当かと尋ねる司会者がいた。どうして漏れたのか。

第五章 反撃の狼煙

オランダのフードバレーに着想を得て農業コンビナートを建設しようとするアグリトピア構想を実現する舞台として選ばれた淡路島には、集荷センター、食品加工場、最新鋭の植物工場が立ち並ぶ完成予想図が準備されていた。その前に秋田は八ヶ岳出張で上村社長が取り仕切る畑のない植物工場でほうれん草が栽培されている現場を見る。帰京した秋田は印旛が秘かに進めていたジャパン・フード・ヴィレッジ(JFV)に経産省が相乗りし、CEOにはかつての秋田の上司米野太郎を予定する話が進んでいることを聞かされ驚く。平井は社内の誰かが息子の件を漏らしたことに失望し、有休を取って家の近くを散歩すると結城に出会い関係を持つ。月刊誌に密告したのは、平井が室長になったことを妬んだ女性の元室員だった。そんな中、ピンポイントの製造中止の噂が社内に流れる。噂の出元は奈良橋専務だった。出来上がった対談記事は最後に平井の息子の再曝露の事実を突きつけられた平井が黙り込んだことまで書いていたため代田はこの部分だけは削るよう求めたが編集者から拒否された。代田は農薬との共存こそが現実的な対応なのかもしれないと迷い始めていた。