黙示《下》 真山仁

2020年11月20日発行

 

第六章 危機と懸念

エネルギー問題で膨大な貿易赤字を抱え、次に食料危機でもう一つの大きな貿易赤字を抱える危険がある日本は、食料安全保障の観点から、輸入に頼らない農業を目指す必要があると説く印旛の言葉に、危機感が欠如していた己を反省する秋田だった。渡米していた奈良橋専務はトリニティ社とGMO開発の提携を進め、提携が実現した暁には農薬開発から手を引くとの情報を平井はキャッチした。米田はJFVの運営母体となる日本食料機構総裁のポストを快諾した。平井は社長に面談してピンポイントの製造中止の噂の真偽を尋ねると言下に否定されて安心する。もう一つの懸念材料であるトリニティ社と大泉泉創がGMOの合弁会社を設立するという噂については事実だった。早乙女が党首を務めるくらしの党主宰のシンポのパネラーとして誘われたがそれを断った代田は早乙女から直接口説かれ、農薬を日本から一掃するためにはGMO栽培に道を開くことだと聞かされる。

第七章 糧

アメリカで開催された世界食糧会議に出席した秋田は、世界規模で旱魃被害が拡大している現実を目の当たりにする。若森農水大臣が食料戦争さながらの会議の状況を見て危機感が薄かったと反省していると、中国から会談を申し込まれて応じる。すると、日本の減反分の米400万トンをゆくゆく購入したい、コメの検疫を緩和する条件も飲むから、という話だった。アメリカの旱魃被害の現地視察に出向き、砂漠化した小麦畑を目の当たりにし、同時にトリニティ社のGMOトウモロコシ実験農場を視察した。GMOの表示義務は家畜飼料にはなく、既にコメの生産量の倍のGMOが輸入されている日本ではGMO飼料で育った家畜が人の口に入っている現状に代田は正しく向き合う必要を感じていた。世界的にGMOを流通させるべきではないかとの議論すら世界食糧会議では起きていた。秋田は研究者からGMOのリスクとして①遺伝子汚染(在来種との交雑)②対抗進化(GMOに対抗可能な新種の雑草やウイルス誕生の可能性)③タンパク質の毒性(ターゲットとする害虫にだけ効く毒素タンパク質が目的以外の昆虫や土壌微生物への影響が未知数である)があると聞き、GMOの必要性も科学的見地から認めるしかないかもしれないと思いつつも、科学をコントロールできると過信しているとの不安は拭えなかった。米田はトリニティ社と既に話をつけてGMO開発研究施設予定地まで考えていた。

第八章 自然と不自然との狭間

日本最大の種苗メーカーの日本種子科学の高梨は、大泉農創とトリニティ社との合弁会社設立の記者会見を受けて秋田をすぐに訪ね、米国のGMO企業は日本が開発した品種解読したタネのDNAを特許申請する莫大な資金と相応の研究施設を持ち、日本が精魂込めて開発改良してきたタネをアメリカに持ってしまが、それは困ると陳情してきた。しかも中国はIP(知財)に無頓着でそんな中国がGMO市場を席捲すれば日本は間違いなく食の根幹を脅かされることになるとも。もはや農業分野で知財戦争が起き始めていた。代田は科学者の平井にGMOをどう考えるか聞きたいと思って声をかけた。平井はGMOについて正しい知識と厳しい監視が必要だと述べる。

第九章 目論見と裏切り

パネルディスカッションでは、司会役の早乙女一人が農薬について過度に危機感を煽り、GMOを推奨するが、パネラーの代田、平井、秋田は冷静に対応し、それぞれが相手を尊重しながら発言する。早乙女は淡路島のJFVは経産省のバックアップで日本初の本格的なGMO研究開発施設が誕生する予定で、現在の臨時国会で審議中だと言う。シンポ終了後、秋田は霞ヶ浦で米田からトリニティの天敵となりGMOがこの国で裁判できるよう切磋琢磨せよと発破を掛けられる。日本食料振興機構設置法案が成立する予定だったその日解散となり採決じまいだったのにGMO研究所設置法案と予算だけが先行して通過した。この状況を見て秋田は経産省への出向願を口にする。

エピローグ

淡路島で国とトリニティが共同でGMO研究所を開設すると知った大泉農創の奈良橋はトリニティに乗り込み淡路島のプロジェクトにT&Dファームも参加することになり、平井はT&Dファームの取締役を兼務し専門家の目でトリニティを見張るよう奈良橋から命じられた。その社屋の屋上では代田が養蜂説明会を行っている。選挙結果は保守政権が復活し、JFVプロジェクトが計画どおりスタートした。機構総裁に米田が就任し、秋田はJFV農業革新室長に。果たして農業が日本を元気にする日は来るのか?(了)

 

前半は農薬問題、後半は遺伝子操作食物問題。一気に読ませる。さすが、ですね。