100分de名著ブックス 『日本の面影』小泉八雲 日本人の優しさを愛する 池田雅之

2016年11月25日第1刷発行

 

帯封「「古今東西の名著、その核心を読み解く 心を開き、耳をすませて、異文化に向き合う。書下ろし特別章『日本人の霊性を求めて』収載!」「そういえば、あの本のこと、何も知らずに生きてきた。自然や人生を楽しく謳歌するという点でいえば、日本人の魂は、不思議と古代ギリシャ人の精神によく似ていると思う。それは、誰しも認めることではないだろうか。私は、そんな日本人の魂を多少なりとも理解できればと思う。(『日本の面影』所収「杵築―日本最古の神社」より)」

表紙裏「明治の日本、そしてそこに生きた市井の人々の姿を、深い愛情をもって描いた小泉八雲の『日本の面影』は、『怪談』と並び称される彼の代表作である。アイルランド人の父とギリシャ人の母の間に生まれたラフカディオ・ハーンは、なぜ諸国遍歴を経て日本に辿り着き、帰化して日本人・小泉八雲となったのか。『マルチ・アイデンティティ』の作家・小泉の目を通して、近代日本の歩みの意味を考える。」

 

はじめにー異文化に対するやわらかな眼差し

第1章 原点を訪ねる旅

第2章 全身全霊で日本文化を体感

第3章 異文化の声と音に耳をすます

第4章 心の扉を開く

ブックス特別章 日本人の霊性を求めて

読書案内 

あとがき

 

小泉八雲独特の日本へのアプローチの方法として著者は2点あげる。1つは物売りの声や町の音に対して耳をすませ、全身で日本文化を丸ごと受け止めようとしたこと、もう一つは、一見不可解な事柄でも、日本人の側に立って、その意味や歴史的な由来について理解しようとつとめたことにあるとする。前者について「聴覚の技化」(斎藤孝の言葉)として紹介。後者について『日本の面影』に収められている「日本人の微笑」をとり上げ、日本人の微笑とは、「自己を抑制し、己に打ち克った者にこそ幸せは訪れる」という日本人の道徳観を象徴していると結論づけ、その範例として、鎌倉大仏の慈悲深い微笑みこそ、その理想を体現していると述べている。また日本の庶民の思考や感情を追体験するという八雲の日本理解の方法は「日本の庭にて」という作品においても見られ、西洋の庭とは大きく異なる日本の庭のつくり方やその哲学的背景について、さらにはその要素の一つひとつの意味について丹念に解説していく、西洋の庭は「花の庭」であるのに対し、日本の庭は「石の庭」であると述べ、日本人の自然石に対する審美眼は西洋人よりはるかに優れている、日本の庭はさまざまな道徳的教訓を表しており、庭に植えられた樹木もそれぞれに象徴する概念がある(樹木には魂があるという考え方)とする。

そして著者は八雲は日本について書く作品について単に「興味」や「好奇心:からではない、賛歌(タウマゼイン)ともいうべき、日本への「敬愛」の心があったからではないかと指摘する。「感動した」「泣けた」「すばらしい」といった反射的で画一的な底の浅い称賛の言葉が溢れ、またヘイトスピーチや罵詈雑言が飛び交う現代において、異文化の対立がテロや戦争や言葉の暴力によって異文化間の対立が先鋭化している世界において、いまこそ八雲のような異なる文化に耳をすまし、賛歌の心を養うことではないか、と述べる。この点はとても説得的だと思う。