2021年5月20日第1刷発行
表紙裏の一部。
「十代から仏典に触れ、パリで研究する一方で、仏教国ブータンに長年生活し、チベット仏教の薫陶を受けた著者の、六十年余におよぶ原典研究と思索から描かれたブッダのユマニスム的プラス思考の人生観」。
はじめに、の前に
「仏教は、歴史が我々に提示してくれる、唯一の真に実証科学的宗教である。
フリードリッヒ・ニーチェ(1844-1900)ドイツ人哲学者
仏教は、近代科学と両立可能な唯一の宗教である。
アルベルト・アインシュタイン(1879-1955)ドイツ生まれアメリカ人物理学者」
の言葉が紹介されてる(他に、アンドレ・ミゴ、ポール・ドゥミエヴィル、リチャード・ゴンブリッチの言葉も)。
著者は、ブッダ自身のことばに近いテクストとチベット仏教をベースに、個人的な仏教観として、日本人の抱くマイナス仏教観は正しくない、仏教は幸福のレシピであり、幸せな人生への指南書であるとする。
第1章「仏教徒は幸せ」では著者の仏教観のエッセンスが述べられており、第2章「ブッダの生涯」ではブッダの生涯に触れている。ここでは時期はハッキリしないものの、ブッダは2か月程度、中央アジアのタキシラ(現在のパキスタン、パンジャーブ州)に遊学していたとの新説があることを紹介し、東西の接点があった可能性を指摘する。仏教の悪魔はキリスト教のサタンと似通った概念で、両者ともゾロアスター教の悪を象徴するアンラ・マンユに由来するものだとも。異文化に触れ、視野を広めた経験が、後にブッダの思想が普遍性を持つのに大きく寄与したのではないかとの考察を加えている。第3章「ブッダが『目覚め』たこと」では、ジェームズ・アレン『「原因」と「結果」の法則』(坂本貢一訳)(『聖書』につぐロングセラーとも言われ、「成功者のバイブル」ともみなされている)の冒頭は、実は『ダンマパダ』(漢訳では『法句経』)の自由訳であり、ブッダの教えから教訓を得ているのだが、読者はそのことに気づいていないとも。第4章「仏教徒の生き方」では五戒を詳しく説明するとともに「よき友」や「社会的、経済的側面」「政治的側面」に触れつつ、「ブッダは現実を直視した人で、ブッダの教えは人生の一瞬一瞬、今ここで実践されるべきもの」とする。終章「現代と仏教」では二十世最大の日本人哲学者・西谷啓政治氏の「今後も仏教もキリスト教も発展していくべきものだ。そこから世界宗教への道をたどれるかもしれない」との言葉や、トインビーの「仏教と西洋の出会いは、二十世紀のもっとも有意義な出来事である」との言葉を紹介しながら、現代の世界の幸せのためには「ブッダの思想が世界中のあらゆる子どもたちの教育に組み込まれるべきであり、それは世界をより穏やかで知的であるという意味において文明化された場所とするのに役立つだろう」というゴンブリッジ教授の言葉で締めくくられている。最後の「あとがき」に著者が邦訳したワールポラ・ラーフラ師『ブッダが説いたこと』(岩波文庫2016年)という書物があるらしいので、今度機会があれば読んでみたいと思う。