キケロ ―ヨーロッパの知的伝統― 高田康成

1999年8月20日第1刷発行

 

表紙裏「西洋近代を形づくるルネサンスの知的活動、それは永らく失われていたキケロ写本の再発見から始まったといってよい。以後、キケロは西洋精神を支える人文主義的教養の基礎として脈々と読みつがれてゆく。前一世紀のローマを政治家・弁論家・哲学者として生きたキケロ。その受容の歴史に光をあて、ヨーロッパの知的伝統を浮彫りにする。」

 

第1章 ルネサンスキケロ発見

  ルネサンス期の代表的詩人ペトラルカはキケロの『アッティクス宛書簡集』を発見。

が、人物としても政治的行動としても一貫性に欠如した「軽佻浮薄な不幸な老人」とマイナスに評価。

「ペトラルカは複雑な思いにとらわれていた。というのは、発見された書簡集から読み取れるキケロは、今まで思い描いていたキケロ像———仰ぎみる「哲学者」あるいは人生の「教師」———とは似ても似つかない、「軽佻浮薄な不幸な老人」という印象を与えたのである。他人には立派な助言をたれながら、その内容に関して当の言っている本人が無頓着であるような人物、そのような無反省な人としてキケロが登場してしまったのだ」

しかし、ペトラルカが行った人と作品との切断は、キケロをして「ローマの雄弁の最高の父」という像をも示した。

第2章 雄弁の父―修辞学の伝統と展開

   『発想論』の構成

   《弁論が扱う「特殊な個別に関わる問題」の3類型 ①法廷的②政治審議的③儀礼

   《修辞学あるいは弁論の5要素》1発想2構成3表現4記憶5パフォーマンス

     1発想の4分類 ⅰ事実ⅱ定義ⅲ行為の特性ⅳ可能性にまつわる事柄を考察

     2構成「議論の型」を適切な順序に置くⅰ導入ⅱ叙述ⅲ整理ⅳ証明ⅴ反証ⅵ結論

     3表現「議論の型」に適切な言語表現を与える

     4記憶「議論の型」に盛られた主題とそれに与えられた表現を的確に記憶する

     5パフォーマンス 主題と言語表現にふさわしい身振りや声を与える

   『弁論家について』

第3章 舞台の上のキケロ

第4章 政治という美徳―『国家について』

    キケロの「国家について」は、プラトンをさかさまにしたもの(シャープル)と評されている。筆者は「文化とか土着性を超えた状況を作り出しているのに対して、キケロは逆に自国の歴史と文化を強調する」。

    さかさまの第1は、土着性と普遍性との対立、第2は国家と個人について、第3は理論志向と実際志向の3点において捉えることができる。つまり、キケロプラトンよりも現実主義者であった。「プラトンは生涯愛読し、敬愛する哲学者であったに違いない。しかし、こと政治となると、キケロは厳しい。政治は純粋に「知」の問題ではなく、「徳」の領分に属する課題であり、実践行為を通じた徳の実現にほかならないのである」

第5章 西洋学の遠近法

 

 キケロという人物は哲学者というより雄弁な政治家として捉えた方が実態に迫ることができそうだ。西洋に多大な影響を与えたキケロとその作品を見事に蘇らせた偉大な詩人ペトラルカ。今度はペトラルカの本を読んでみよう。