藏《一》 宮尾登美子

2008年5月20日発行

 

新潟の大地主田乃内家の三男三左衛門が酒造への意気を阻喪している間、一人息子意造は学業に精を出し東京帝国大学工学部を卒業して実家に戻る。東京遊学中に三左衛門は大貫梅次を杜氏として雇い入れ、意造は母むらが新発田で見初めた賀穂と結婚する。9度目に妊った女の子「烈」は、病がちの賀穂の妹佐穂が田乃内家に入って世話をした。烈の6歳の時、夜になると真っ暗に見えると聞き、烈の視力に問題があることを知る。治療法はない。地元の眼科だけでなく、東京帝国大学医学部まで出向いて診察を受けるが、網膜色素変性でやがて失明する、治療法はないと宣告される。絶望的な状況で戻った意造だったが、今度は『冬麗』の蔵は腐造の悲劇が襲った。烈の回復祈願のため越後175里の霊場めぐりの旅に出た母むらは無理が祟って床に伏し、腐造の責任を取って梅次は暇を貰いたいと言い、烈の入学式は迫り、藏を続けるかどうかで迷い迷う意造。烈は入学を愉しみにしていたが直前になって馬鹿にされるのが嫌だと言って学校は必要ないと言い出した。病弱な賀穂が娘のために母むらに次いで巡礼の旅に出るが巡礼の途中で意識を失いそのまま亡くなってしまった。