回想九十年 白井静

2011年3月10日初版第1刷

 

・中国に東洋ということばはない。漢字文化を共有する民族が独自の文化を発展させてきたが、そこに共通の価値観というべきものがあり、その価値観が東洋の精神を生む母胎である。明治43年4月福井市生まれ。小学校を終えると、広瀬徳蔵法律事務所に世話になった。夜間商業の京阪商業(現府立守口高校)の第二本科に編入させて貰った。立命館夜間部に入学し、『詩経』と『万葉』を第一段階の読書目標としていた。3年の夏休みに在学中だったが欠員補充の中学教諭に就職した。大学卒業が人より10年遅れたので教授になったのも10年程遅い。論文、『金文通釈』、『説文新義』は一般の読者を対象とするものではないので、一般書として岩波新書に『漢字』を書いた。また平凡社の「東洋文庫」に『漢字の世界』上下二冊を書いた。中公新書には『漢字百話』を書いた。講談社の学術文庫に『中国古代の文化』『中国古代の民俗』を書いた。60歳を期して中公新書の『詩経』を書き、平凡社東洋文庫に『金文の世界』として殷周社会史の粗描を試みた。中央公論社から『中国の神話』『中国の古代文学』(1・2)、平凡社東洋文庫に『漢字の世界』(1・2)、中公新書に『漢字百話』を書いた。字源字書として『字統』、字訓が国語よみとして定着する状態を検証する、古語辞典を兼ねた形の『字訓』、全両書の成果を基礎とする一般字書としての『字通』を予定した。

 

宮城谷昌光とのインタビュー「日本人が忘れたもう一つの教養」

 白川先生のを読むと、「身」は、妊娠している婦人が、前足を出してる形なんです。つまりこれはまず女性のからだである。そうすると男を「身体」って書くのは抵抗があるんです。そういう一つ一つが、字に対するためらいを生じさせたり、考えさせたりする。

江藤淳とのインタビュー「日本人と漢字世界」

 江藤 現在の中国の簡体字は、郭沫若胡適の延長線上に出てきていることになりましょうか。

 白川 原則は、音でいくというやりかたです。

石牟礼道子とのインタビュー「漢字の素晴らしさを伝えたい」

 文字制限が一番いかんと私は思う。知識を制限するというようなばかなことはありません。一つの枠にはめて、規格化するという習慣を、無意識のうちにつけること、これが一番いかん。知識は無限でなけりゃいかん。

 

インタビューは、そのほか、呉智英酒見賢一白井晟一今井凌雪、北川英一、谷川健一/山中智恵子/水原紫苑、栗津潔、吉田加南子がある。