ザ・殺し文句 川上徹也

本書で何度か登場している野村克也は、印象的なフレーズを語ることで有名でした。それらの多くはその場で思いついた言葉ではなく、何らかの元ネタからあらかじめ準備していたことが多かったといいます。現役時代の代名詞だった「ひっそりとさく月見草」という比喩も、太宰治の『富嶽百景』にある「富士には、月見草がよく似合う」という一節からヒントを得て準備をしておきインタビューの時に話したものでした。監督になってからは特に、日本や中国の古典を読みあさり「使える言葉」を探すのに必死だったといいます。野村の名言として伝えられている「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という言葉も、肥前国平戸藩第9代藩主・松浦清(静山)の『常静子剣談』という本からの引用でした。