蔦重の教え 車浮代

2014年2月10日第1刷発行

 

「蔦重(つたじゅう)」とは、江戸時代の版元・蔦屋重三郎のこと。

主人公は、広告代理店勤務の武村竹男。自らのミスでもないのに進退窮まり、鳥居が書かれた壁に立ションしたところ、江戸時代にタイムスリップしてしまう。その彼を蔦重が面倒を見る。連れて行かれた先が歌麿の仕事場。主人公は若き頃の体つきに戻り、歌麿の妻りよと睦まじい姿のポーズを取らされて枕絵のモデルにさせられる。翌日歌麿から蔦重が吉原で細見(店ごとに遊女の名を記した案内)を刊行し、恐らく日本で初めて広告を取り入れた出版も手掛けるなどして立身出世を果たした過去を聞く。蔦重に連れられて座敷で芸を披露せよと言われて蔭でこっそり電卓使って暗算ができるように振舞い有頂天になる主人公。調子に乗って花魁に誕生日を当てるからとなぞかけをした時点で蔦重から強烈な拳骨を喰う。帰りがけに歌麿から何がご法度だったのか聞かれて調子に乗り過ぎたことを大いに反省する。

勝川春章にその弟子の春朗との出会い。後の北斎だが、主人公は春朗が後に北斎になるとは知らずにイカの塩辛のつくり方を教える。蔦重から菊乃をあてがわれても拒否する主人公だが、菊乃に惚れた上総屋の若旦那がその場に乗り込んできて菊乃を短刀で刺す。修羅場になり、花魁の蜻蛉が落ちる際に主人公が下に潜り込んで蜻蛉を助けようとして一緒に転落する。すると主人公は再び平成の世に戻ってしまった。病室でフランスから帰国した妻と娘と再会。娘に歌麿の画集を持ってきてもらい病室で1点1点眺める。その中に主人公がりよと絡んだシーンを歌麿が描いた画が登場する。蔦重の教えを実践すべく職場を退職し、パリで和食の店を出す決意をする。日本を離れる直前、歌麿の下絵を壺に入れて埋めた場所を掘り出すが、出てきたのは蔦重の手紙だった。そこには蜻蛉の秘密が書かれていた、平賀源内との仲、吉原の花魁になった経緯、歌麿の絵を没収したことなど。そして最後に蔦重の下でボールペンでその教えを書き溜めたメモを現代に戻ってきた時に来ていた着物の中から発見する。

「実際にてめえが見ている目と、相手からてめえがどう映っているかってえ目、最後に、天から全部を見通す鳥の目だ。この三方から物事を見りゃあ、失敗しないし、騙されねえし、新しい考えも湧くってもんだ」。

予想以上に面白かった!