こころ  夏目漱石

昭和26年8月25日初版発行 平成16年5月25日改版初版発行 平成25年4月30日改版29版発行

 

裏表紙「『自分は寂しい人間だ』『恋は罪悪だ』。断片的な言葉の羅列にとまどいながらも、奇妙な友情で結ばれている『先生』と私。ある日、先生から私に遺書が届いた。『あなただけに私の過去を書きたいのです…』。遺書で初めて明かされる先生の過去とは? エゴイズムと罪の意識の狭間で苦しむ先生の姿が克明に描かれた、時代をこえて読み継がれる夏目漱石の最高傑作。解説、年譜のほか、本書の内容がすぐにわかる〈あらすじ〉つき。」

 

「上 先生と私」、「中 両親と私」、「下 先生と遺書」の3部構成。

海水浴場で先生と出会った私は、先生の自宅を度々訪れて先生の奥さんとも次第に交流を深めていく。先生は学問がありながら仕事をすることなく奥さんとひっそりと暮らしている。ある時先生が雑司ヶ谷の墓地に友人の墓参の供をお願いするが拒絶される。自分は寂しい人間…死という事実をまじめに考えたことがあるか…恋は罪悪だ、そして神聖なものだ…自分が信用できないから他人も信用しない…人は金を前にすると悪人に変わる。親友を亡くしてから性格が変わったことを奥さんの話で知るが、私は謎を抱えたまま先生に惹かれていく。一人ぐらいは信用して死にたいから時機が来れば話すと先生は約束する。

私は大学卒業後、故郷に帰る。父が危篤になったころ、一度会いたいという先生の電報が届く。そのうち先生から分厚い手紙が書留で届く。「この手紙を手に取るころには、私はこの世にはいないでしょう。」と記してあった。私は東京行きの汽車に飛び乗る。

先生は二十歳の時に両親と死別し、叔父に財産管理を任せて進学する。叔父の援助で高校に進み当時は叔父を信頼していた。ある時叔父から縁談を進められるが、それを断ると、以来、叔父の態度が少し変わり、両親の財産を調べると叔父が財産をごまかしていたことを知り、人間不信に陥る。先生は家を探していたところ、下宿を勧められ、軍人の遺族で奥さんと娘さんの3人暮らしが始まる。先生は同郷の友人Kを呼びよせるが、Kは彼女に恋心を抱く。先生も彼女に恋をしていた。Kは先生より先に「お嬢さんに気があるので応援してくれないか。」と告白する。それを聞いて“精神的に向上心のないものは、ばかだ”と2度同じ言葉をくり返すと、Kは“ぼくはばかだ”と答え動かなくなる。先生はKの本心を知りつつ、奥さんに伝えず、突然お嬢さんを下さいと言うと、奥さんは了承してくれる。結果、先生は親友のKを裏切ってお嬢さんを射止める。そのことを知ったKは、数日後、自ら命を絶つ。

先生は、彼女と結婚した後、親友を死に追いやった罪悪感を抱え続け、最後には自らの命を絶って遺書を私に送るのであった。きっかけは明治天皇崩御と乃木将軍の殉死。自殺を決意した先生の遺書には、「私に乃木さんの死んだ理由がよくわからないように、あなたにも私の自殺する訳が明らかにのみ込めないかもしれませんが、もしそうだとすると、それは時勢の推移から来る人間の相違だからしかたがありません。」という印象的な一文が遺されている。

果たして時代精神を継承するということは、恐らく容易ではないのだろう。それにしても、読むたびに読後感が変わるという小説というのも珍しい。中学の頃に最初読んだ時は正直良く分からなかった。20代で再読したときは何て暗い小説を書くんだろうと思った。30代で色々なあやが見えてきて複雑な小説を書く人だなあと思った。40代はいろいろな伏線が伏線として張り巡らされているところに感心した。50代で今回読み返してみて、やはり唸った。名作と言われる由縁をようやく僅かながらに感じ入った。