サピエンスの未来 伝説の東大講義 立花隆

2021年2月20日第1刷発行

 

帯封「人類は、分断と災厄を超えて、進化するー。壮大なスケールで描かれるサピエンスの全史。現代の困難を乗り越える鍵はここにあった!伝説の東大講義、遂に成る。」「すべてを進化の相に見よ!物質・生命・脳・宇宙…あらゆるテーマを綜合する立花人間学の集大成。」

裏表紙裏「我々がどこから来てどこに行こうとしているのかは、進化論的にしか語ることができない。もちろん、それが具体的にどのようなものになろうとしているのかなどといったことは、まだ語るべくもないが、どのような語りがありうるのかといったら、進化論的に語るしかない。そして、人類の進化論的未来を語るなら、たかだか数年で世代交代を繰り返している産業の企業の未来や商品の未来などとちがって、少なくとも数万年の未来を視野において語らなければならない。-『はじめに』より」

 

目次

解説 不安な時代の知の羅針盤 緑慎也

はじめに

第1章 すべてを進化の相の下に見る

第2章 進化の複数のメカニズム

第3章 全体の眺望を得る

第4章 人間の位置をつかむ

第5章 人類進化の歴史

第6章 複雑化の果てに意識は生まれる

第7章 人類の共同思考の始まり

第8章 進化論とキリスト教の「調和」

第9章 「超人間」とは誰か

第10章 「ホモ・プログレッシヴス」

第11章 週末の切迫と人類の大分岐

第12章 全人類の共同事業

 

第1章

前巻に続き、ジュリアン・ハックスレーはスノーの指摘する文科系の文化とサイエンス系の文化の乖離という困った状況が存在することを認めた上で知の世界に全体性を回復することが必要でありそのためには人間なかんずく進化という概念を中心に世界を見ていくことを訴えた。その中で著者はラヴロックの『ガイア』を紹介する。

第2章

著者は再びハックスレーを取り上げ、スペンサーの社会進化論を紹介した後、アインシュタインに匹敵する知的巨人のテイヤール・ド・シャルダンをとり上げ、ハックスレーの言葉でシャルダンの著作(『現象としての人間』)を紹介する。具体的には、シャルダンが、精神形成、宇宙形成、生物圏の上に重なるものとしてまた人間化を推進する変化の主体として働く精神の圏を表す言葉として精神圏という造語を作り出したことを紹介する。

第3章

イエズス会の司祭でもあったシャルダンカトリック教会との関係や、シャルダンの進化論が他の進化論者とちがうのはより高次の意味付けを求めてその階段を比類なき高みまで登っていったこと、それを数量的な感覚として4つ(①広大さと微小のなかに感ずる空間の無限さの感覚②深さに対する感覚③数に対する感覚④比率の感覚)あげ、これを指数関数的に捉えることに慣れることを訴えている。

第4章

宇宙全体の核子の数は1080.つい無限なんて言いがちだがちゃんと数える手段がある。シャルダンは養うべき感覚としてそれ以外に3つ(⑤質の感覚もしくは新しいものに対する感覚⑥運動に対する感覚⑦相互の関連に対する感覚)をあげる。網膜に映る二次元の映像がなぜ三次元立体視を可能にするのかという切り口から人間は脳で見ているという事を解説する。

第5章

第6章 

テイヤール・ド・シャルダンはx軸に複雑性を、y軸に上に無限大、下に無限小という座標を用いて進化の流れとは複雑さの流れであると提唱する。Y軸でヒトを0とし、宇宙の直径を1026、地球の半径を10、電子を10-14とし、X軸でウイルスを10、最小の細胞を1011、人間の脳を1026と表示する。そしてこの複雑化=進化を動かすものは何かについて逆エントロピーと表現できると著者は語る。これはシュレディンガーの言う負のエントロピーとほとんど同じ。シャルダンは動物に意識があるというだけでなく物質にも意識が潜在的にある、それがあまりに低いレベルにあるので顕在化しないだけという。

第7章 

進化の一般則としての「収斂」と「放散」を用いて、シャルダンの進化論は系列束でできた枝同士がまた相互結合を深めどんどん結合を密接にしながら一体化を高める方向に収斂していく先にオメガ点への収斂が起きると解説。

第8章

キリスト教は進化論と最も調和する思想体系であるというシャルダンの説明を解説する。

第9章

ニーチェの超人とシャルダンの「超人間」との違いを解説する。

第10章

染色体は変化せずとも人類享有の知識という形をとった遺伝情報が進化してきている、階級による分裂ではなく、一つの精神―運動の精神こそが人間を二つの陣営にへだてようとする、このホモ・プログレッシヴスとそうでない人達との間で大分裂しようとしている人類は人間の超―進化の過程が進んでいく中で共感の力が人類集団をひたしそれが人類の結合を強めそれによってそれまで実現不可能だったようなことが可能になるとシャルダンはいう。

第11章

いつか迎える宇宙の死の向こう側に存続するものがあることを信じること、そこに神の存在の必要性を説き、ニヒリズムの影から逃れることを説くシャルダンの終末論。著者は終末論的選択かどうかは別として人類統合の方向に歩を進めるのかどうか、ことあるごとに選択を迫られる時代に我々の時代はあると訴えかけている。

第12章

地球化学という新しい学問分野を築き上げたウラジミール・ヴェルナツキーは人間は独立栄養生物にあるべきであるとし、宇宙開発の先駆者ツィオルコフスキーは独立栄養生物に進化し最終的には人は神となり宇宙は神化すると考えていた。ツィオルコフスキーはモスクワのソクラテスと呼ばれたニコライ・フョードロフから教えを受けた。フョードロフの思想は死後に弟子たちが編集した『共同事業の哲学』に著されているが現在も刊行中。ツィオルコフスキートルストイドストエフスキー、ゴーリキ―などに強い影響を及ぼした。フョードロフの思想は反エントロピーの方向に全世界を合理的自覚を持って動かすには全人類が総力を挙げることが必要だというもの。「世界は、眺めるために与えられたものではない。世界を観照することが人間の目的ではない。。人間は常に、世界に対して作用を及ぼすこと、自分の望むがままに世界を変えることが可能であると考えてきた」

 

ハックスレー、シャルダン、フョードロフらでほぼ1冊埋め尽くされている。もとより知らない事ばかりだったので大変勉強にはなった。この3人の著作はいずれ読みたいと思う。