昭和41年9月15日初版発行 昭和53年12月5日10刷発行
編者は、堀はごく僅かの詩しか書かなかったし、本領は勿論小説家だが、気質に於ても散文作品の表現に際しても詩人的なものを多分に持っていた、というより生まれながらに詩人であって、ただ詩を書くよりは小説を宗とした。厳格な審美眼と自己流の意識に徹した判断力とを持ち謂わば自分の好みに従って彼の世界を構築した詩人である。自己の内部を掘り下げることによって彼の魂から堅琴の音色を高め、さまざまな音色を奏でる詩人であったという。
私にとって、一番気にいった詩は、
ライネル・マリア・リルケの訳詩
窓 Ⅲ
お前はわれわれの幾何学ではないのか?
窓よ、われわれの大きな人生を
雑作もなく区限ってゐる
いとも簡単な図形。
お前の額縁のなかに、われわれの恋人が
姿を現はすのを見るときくらゐ、
かの女の美しく思はれることはない。おお窓よ、
お前はかの女の姿を殆ど永遠のものにする。
此処にはどんな偶然も入り込めない。
恋人は自分の心の真只中にゐる。
自分のものになり切った
ささやかな空間に取り囲まれながら。