昭和47年7月31日初版発行 昭和53年12月20日8刷発行
訳者巻末の「エドガア・アラン・ポオの詩とその詩美」によると、「ポオはアメリカの生んだ一人のー恐らくは最大の詩人であったといってよいであろう。その天才は不思議な光芒を遥かにフランスの空に曳いて、『悪の華』の詩人、ボオドレエルを生んだ」「ポオの遺したいくつかの詩論のなかにおいて『詩の原理』は最も重要なものと考えられるが、それによれば、詩が真をつたえるものであるという教訓的な立場に対して、真に美を置き換えることによって、いわば芸術のための芸術の立場を説いた」「浪漫主義の精とも言われるジョン・キーツが『美は真であり、真は美である』とうたうとき、いだいていた一切の思想をふくんでいる。ポオの芸術思想を要約するならば、言葉を用いる詩とは美の韻律的な創造であると定義される。その唯一の審判者は趣味である。それは知性ならびに良心とはただ間接的な関係をもっているにすぎない。偶然の場合でなければ、詩は義務や真理とは寛の関係ももっていない」「美学者のフォルケルトは『美の根本形態論』の章において内容上からして喜ばしめる美と重圧する美と分けているが、ポオの歌わんとしたものは重圧の美であり悲哀の美である」とある。
ポーの代表作と言えば、「モルグ街の殺人」「黄金虫」「黒猫」だと思っていたが、詩人としても有名だった。
以下は、詩集の中から気に入ったものを少し抜き書きしてみた。
海中の都市
見よ! 死の神は王座をしつらえた
薄暗い西方のはるか波の底に
ひとり横たわる不思議な市に、
そこは善人と悪人と、最悪のものと最善のものと
永遠の憩いにつくところ、
この世のものとはいささかも似ていない。
(年ふりんがら、震えない塔よ)
あたりには、波を立てる風も落ち
陰鬱な湖がひろがる。
一すじの光も天上からは、
夜の長いこの都の上には差してこない。
しかし青白い海からのぼる光は
ひっそりと小塔の上に流れるー
煌いているのは遠く自由な塔の上―
また円蓋やー尖塔やー王者の広間―
寺院の上やーバビロンめいた城壁の上、-
彫られた蔦や石彫の花の影さえ
朦朧と、久しく忘れられていた四阿の上、-
また夥しく怪しい社の上を照らせば
その花環のようにしつらえた小壁は
六絃琴と菫と葛をからませている。
巻末の訳者によると、この詩には、ポオの探求した「ポオの精神の世界」「魂の世界」「誰も耕したことのない空漠たる地方」が現れている、「ポオに描かれた風景は夢の風景であり、仮想の風景であり、ポオの魂の恐怖の色に染められたものである」「詩が主観詩と客観詩に分けられるとするならば、ポオの詩の世界は主観詩の極地に彷徨したものであると言ってよい」と解説している。
なかなか、そこまで読みとることは難しい。。。