眩(くらら)《下》 朝井まかて

2022年11月20日発行

 

第7章 鷽(うそ)

善次郎と肌を重ね合うようになったお栄は、ある日、己丑(きちゅう)の大火に出会って善次郎と一緒に火傷した。北斎の孫時太郎は奉公に出したが、奉公先で迷惑をかけた上、行方不明になる。時太郎はあちこちで北斎の孫だと言って博打で借金をこさえては北斎にしりぬぐいをさせた。そんなある日、善次郎が所帯を持ったという話をお栄は聞いた。お栄は鷽替えしたと喜んだ。北斎は火事で板木の全てを焼失して困窮した西村屋を救うため富士の絵を描くことを決意し、お栄は他の仕事を全部引き受けることを決意して、凶を吉に替えてみせると胸の中の善次郎に告げた。

 

第8章 富嶽三十六景

 風景画は売れない。それなのに一世一代の大勝負に出た北斎。彫師に仙太郎、摺師に以蔵を起用し、西村屋三代目は36枚描くよう北斎に求めた。大当たりを取った。これにより西村屋は再興を果たした。歌川広重が「東海道五十三次」を描いた。時太郎が舞い戻ってきた。父親に引き取らせて奥州に連れて行かせたが出奔してしまった。孕ませた責任を取って時太郎は祝言をあげた。ところが二月で再び行方不明になる。責任を取れと詰め寄られたお栄は西村屋を頼り50両を借りた。結局、相手が堅気ではなく、時太郎は本当にやり直すつもりだったが、相手が悪かったようだった。

 

第9章 夜桜美人図

 10数年の時が過ぎた。善次郎が久しぶりにお栄を訪ねた。北斎は信州旅だった。友人に逝かれて気落ちした時にどうするのがよいか北斎に話を聞きに来たようだった。応為は夜桜美人図を仕上げた。善次郎もまたよく似た夜桜美人図をお栄に送ってきた。

 

第10章 三曲合奏図 

関羽割臀図の血の色も見事なら、三曲合奏図の構成も見事である。色々説明してあったが、実際の絵を見た方が早い。善次郎が死んだ。お栄は北斎から言われて野辺送りに参加した。

 

第11章 冨士越龍図

 三曲合奏図の制作が続いている。北斎は齢90。五助は卒寿の祝いにやってくる。北斎が雪の富士越しの昇龍を描く。北斎は逝った。お栄は菊図の画料を受け取った。北斎でさえめったに受け取ったことのない画料だった。

 

第12章 吉原格子先之図

右端の大提灯に「應」の字、真ん中の提灯に「為」、左の提灯に「栄」の字を書き入れた。

確かにこの絵を見ると書いてある!

 

 各章の題は、北斎や応為の作品名。特に陰影を駆使して描かれた絵はどれもスゴイ。若い時に描いた西画が納得できずにずっと北斎の下で絵を描きつづけ、更には頭の中でも、より良い作品を描き続けた應為が應為ならではの絵を描くに至った経緯が面白い。