眩(くらら)《上》 朝井まかて

2022年11月20日発行

 

第1章 悪玉踊り

 北斎の娘お栄は、水油屋の次男で町絵師の吉之助と結婚する。だがひたすら絵を描くお栄に吉之助が文句ばかり言う。お栄は才能豊かな善次郎(渓斎英泉)に胸がどきついて妬心めいたものが疼いたこともあった。家を飛び出し火事を見物しに行ったお栄は、吉之助から“女の屑”呼ばわりされ、家を飛び出した。二度と引き返すつもりはなかった。

 

第2章 カナアリア

腹違いの姉の息子時太郎が北斎に預けられた。小兎が口煩く躾けるのを北斎が文句を言うと、小兎は時太郎の面倒を一切見なくなった。北斎はすぐに根をあげた。北斎は馬琴からもらった目が覚めるような黄色のカナアリア鳥を籠に入れて軒先に吊るした。そんな時太郎だが善次郎に懐いた。お栄はそんな善次郎が気に入らない。一方、善次郎は北斎の再来かと言われて周囲から模倣の才を褒められたが、カナアリアの下絵などを描き込んでいるお栄の己の手で己の色を作る野心を羨ましく思っていた。

 

第3章 揚羽

善次郎はお栄を連れて吉原の妓楼の襖絵で南蛮渡りのびろうどみたいな黒で緑を揚羽蝶を描いた。そこに善次郎の妹で女芸者2人ゆきとなみがやってきた。

 

第4章 花魁と禿図

阿蘭陀にいるシーボルトから西画の依頼を北斎に頼むために家にやってきた絵師の川原慶賀。身分、稼業、場、季を全て違えてもらえれば画題は任せるという。北斎は異国にお披露目の腕試しだと引き受ける。150両で北斎は10日で15枚仕上げると約束し、自らは12枚を、お栄は1枚、弥助は2枚を担当することに。お栄も弥助も西画は初めてで期限直前になって自信がないため書き直しさせてくれと頼むが北斎はそれが玄人と素人の違いだと言って受け付けない。納めた絵は果たしてシーボルトを満足させられたのか気になって仕方ないお栄だったが、シーボルトは満足したようだった。もっとも、間に入った川原はお栄の描いた絵には辛口の点をつけた。

 

第5章 手桶図

 善次郎の妹ゆきが商家に嫁ぐことに。正月早々から小兎とお栄は喧嘩する。小兎は善次郎をお栄の婿に迎えたらいいと勝手な事ばかりを言っていた。カナアリアをわざと逃がした時太郎が絵師の修行をしていた五助のせいにしたため、お栄は時太郎を許さなかった。が五助は籠から自由になったと言い、時太郎を責めることはしなかった。そんな正月早々、北斎が倒れた。

 

第6章 柚子

 半身不随となった北斎を小兎がかいがいしく面倒を見る。医者からはリハビリしないと呆けてしまうと言われたお栄は小兎にそれを伝えることができず、絵筆を持たせようとすると小兎から止められどうすればよいのか頭を悩ませた。そこへ馬琴が現れ、養生する北斎を詰り、挑みたいことがあったのではないのかとあえて憎まれ口をたたいた。お栄には柚子の入った籠を渡し、卒中薬になるので酒で煮て飲ませるようにと言って帰って行った。北斎は体を動かし躰を動かす修練を始めた。元気を取り戻していく北斎だったが、小兎が倒れてしまい亡くなった。優しい善次郎と口づけを交わすお栄だった。