2006年11月11日発行
あとがきによると、本書は『漱石全集』第17巻(平成8年岩波書店)を底本とし、その全集から熊本時代に詠まれた百句をあざ蓉子、坪内稔典が選んだものらしい。鑑賞、エッセーの書き手は、熊本と愛媛の若い人を中心にあざが依頼した。明治29年から33年に及ぶ熊本時代の漱石は俳人として世に知られていた。
これを機会に、漱石の熊本時代に書かれた二編の小説『草枕』『二百十日』をまた読み返してみようと思う。
気に入った俳句をいくつか挙げておきたい。
秋立つや千早古る世の杉ありて
千年生きた神のごとき杉と今しか存在しないちっぽけな自分とを対比して畏敬の念をもって杉を仰ぎ見ている作者の姿が目に浮かぶようである、という趣旨の解説がある。
大宰府天神
反橋の小さく見ゆる芙蓉哉
反橋は朱、芙蓉はきっと純白。夫人同伴で九州各地を一週間ほど旅した新婚旅行だったと思われる、二人で道真公に何を祈ったのであろうか、という趣旨の解説がある。
君が名や硯に書いては洗ひ消す
七夕の前日に、いとおしい人の名を紙に書きたいが、書くことができない、恋しい気持ちを消さなければならない、一途な思いに共感する、という趣旨の解説がある。
なある程是は大きな涅槃像
これは解説はいるまい。
魚は皆上らんとして春の川
こちらも解説は不要であろう。
有感
有耶無耶の柳近頃緑也
生きているとも枯れているともわからなかった柳が春になると芽を吹き始め、緑が濃くなってきた詠んだもの。幼少より知っている女の子がしばらくみないうちに成長し美しくなったという風にもとれる、という趣旨の解説がある。
熊本高等学校秋季雑咏 植物園
本名は頓とわからず草の花
これも解説不要であろう。
小説の顔ばかりしか見てなかったが、俳人としての漱石シリーズが本になっているらしいので引き続き読んでみたい。