新装版 鬼平犯科帳(一)3⃣ 池波正太郎

2005年7月27日第1刷発行

 

暗剣白梅香

 金子半四郎は、三の松平十から平蔵暗殺を三百両で引き受け、井上医師邸の帰りを襲った。一度目は平蔵は振り向きもせず逃げた。刃を向け合うと今度は半四郎が平蔵に威圧されて逃げた。亀穴の政五郎が江戸に入ったことを聞き付けた粂八は平蔵にそのことを伝えた。半四郎の香が白梅香であることを突き止めた半蔵は同心に匂いを覚えさせてその男を見つけたら後をつけるよう命じた。一度は半四郎を見つけた同心の尾行に気付いてすぐさま撒いた。平蔵は岸井左馬之助の誘いに乗り深川に向かうと半四郎も同じ店に入っていく。すると亭主の利右衛門が半四郎の腹に出刃包丁を突き刺した。金子七平の息、半四郎を、敵討ならぬ返り討ちにしたのだった。平蔵の暗殺を依頼したのは亀穴の政五郎に頼まれた誰かだろうが、誰かは分からず仕舞いだった。

 

座頭と猿

 座頭の彦の市は、おそのの前では盲人を装い、3か月前から同棲していた。門前の茶屋で働くおそのに支度金を渡し、私の女になってくれと頼み、おそのが受け入れてくれたからだった。だが、おそのに間男がいることを知る。彦の市は蠟燭問屋三徳屋の主人に可愛がられ、蓑火の喜之助を三徳屋に引き入れることになっていたが、当夜、喜之助は仲間と争い相打ちとなって死んだ。お頭の蛇(くちわな)の平十郎に住まいを引き払いたいと願い出たが、今までのように暮らせと命じられていた。間男は小間物屋の徳太郎だった。蛇の平十郎親分が徳太郎を貸してくれと頼まれ、徳太郎が承知すると、彦の市が蛇のお頭の手下であることも知る。徳太郎は夜兎の角右衛門の手下で美君子(猿)小僧との異名を取っていた。徳太郎はおそのから手を引くように言われ、別れる前に彦の市をそっと殺らせようと考えていた。徳太郎は短刀を忍ばせ彦の市宅に向かうが、井戸の水で体を拭こうと井戸に向った彦の市はたまたま鰺切り庖丁を見つけて手にかけると、そこに徳太郎の姿を見かけた。近寄ると徳太郎と分かり、徳太郎も相手が彦の市だと分かり互いに手にした武器を相手に刺したが、彦の市が僅かに早く徳太郎は悲鳴を上げて絶命した。彦の市はそのまま江戸から離れた。おそのは二人の正体を知らないが、おそのの身辺を見守れば彦の市が現れると踏んだ平蔵だったが、おそのは既に彦の市も徳太郎のことも忘れて別の男に入れあげようとしていた。

 

むかしの女

 平蔵はおろくと20余年ぶりに出会う。石川島に出来た寄場に授産場を敷設し、そこからの帰り道、老婆から声を掛けられたのだった。おろくは平蔵が19歳の時、26,7歳だった。牙儈(すあい)女と呼ばれる娼婦だった。おろくのひものようになっていた本所の銕の異名を持った平蔵はおろくへの嫉妬心から脇差の切先でおろくの胸を傷付けたことがあった。おろくがかつての男に出会うと男が金を渡してくれたことに味をしめ、昔のなじみの客の前に顔を出すだけで次々に昔のなじみ客の前に顔を出して小銭を稼いでいた。その延長線上で平蔵の前に姿を現したのだった。木綿問屋の手代だった万吉が番頭に出世したときいたおろくは万吉の前に姿を現すと、驚き5両を差し出した。この話が人づてに伝わり、無頼浪人が集まる雷神党の首領井原惣市の耳に入り、井原は大名の家臣に成りすまして木綿問屋に姿を現し人払いした後におろくの弟だと偽り、おろくは子をもうけて嫁入り支度金100両を用意せよと言う。その後おろくは行方不明となり、御用聞き文次郎が平蔵を訪ねる。文吉が事の全てを文次郎に打ち明けたのだった。平蔵は井原の隠れ家を襲い、おろくの亡骸を発見する。おろくの首を万吉に届けるつもりだったのだろうと推察する平蔵だった。