狼奉行 高橋義夫

2003年5月30日発行

 

祝靱負は、山代官として黒森館勤務を命じられたが、家柄と釣り合わず釈然としない。雪深い館で古沢十兵衛と安達左織が出迎える。山から通行勝手次第と決められている勘のう率いるまたぎが降りて熊の肉の貢ぎ物を持ってきた。春が来た。麓の村に狼(かせぎ)が出現して12歳の村娘の喉を喰い破って殺した。その頃、城下にいた幼妻すえが自害した。詳しい事情は分からない。この知らせを受けた頃、二人の人物が訪ねてきた。主君の浪費を諫める忠臣が罰を受け、主君に阿る佞奸が藩の実権を牛耳る藩政を正すためには脱藩して江戸に赴いて直訴するしかないといい、祝を誘い込む。一度はこれに応じた祝だが、十兵衛が追い駆けてきて二人を次々に棒で打ちのめし、従者も命がけで祝を宥め、二人に合流するのを思い止まらせる。藩のために何も出来ない敗北感を味わった祝だったが、十兵衛から棒術の手ほどきを受けると、快活な祝に回復した。ところが忠臣が餓死の憂き目に遭った。が、祝がそのことを知った頃には脱藩騒ぎも収まり、表面上は藩政は安定を取り戻していた。勘のうの娘みつが祝に字を習いに来た。祝はみつと関係を持つ。勘のうがみつを取返しに来たが、みつは従わなかった。十兵衛からみつは勘のうの妹と十兵衛の間の子で、勘のうが我が子のように育ててきたことを聞いた。家畜の変死事件が相次ぎ、館周辺でどうやら狼に端を発した狂犬病が流行り始めたようだった。狼を根絶やしにする以外に防ぐ方法はなかった。勘のうに助力を求めつつ祝は大きな布陣を敷いてまたぎ神を最後は棒で打ち付けて絶滅させた。祝は脱藩者を助けた罪で裁かれようとした時に十兵衛が祝を助けるために脱藩者を逃がしたのは自分だと名乗りを上げると、その罪すら祝に被せようとしたたため与力を斬る。みつは祝の袖をつかんで勘のうの所へ行こうと言う(了)。