青雲はるかに《上》 宮城谷昌光

平成19年4月1日発行

 

裏表紙「戦国時代末期。大望を抱く才気煥発の青年説客、范雎(はんしょ)は無二の親友鄭安平(ていあんぺい)の妹の病を治すべく、悪名高い魏斉(魏の宰相)の奸臣須賈(しゅか)に仕えた。范雎の襄王への謁見が誤解を生み、魏斉の宴席で范雎は凄惨な笞打ちにより歯や肋骨を折られ、半死半生のまま簀巻きにされ、厠室で汚物に塗れた─。戦国の世を終焉に導いた秦の名宰相范雎の屈辱隠忍の時代を広壮清冽な筆致で描く歴史大作前編。」

 

范雎の家は貧しく、鄭安平の家も貧しかった。范雎は亡国になりつつあった斉に行った。斉で范雎は比伝に出会い、魏に向かった。その道中で吟尼という行商人に出会う。二人は吟尼の知り合いの原氏の家を訪れ、原氏の妹原声と出会った。范雎の名は雎(みさご)と言った。水辺に棲む猛禽と言われる。いつか天空を飛翔すると思ってきた。原声から天空へ連れて行って下さいと言われた。官途に片足も踏み出すことなく帰ってきた范雎だったが、鄭安平はむしろ安心したと言い優しく迎え入れた。鄭安平は暗い無名の青春から出発した奴が最後には勝つと励ました。范雎は人としての器量が鄭安平より劣ることを素直に認めた。鄭安平の家には妹の季がいた。季は嫁ぎ先で虐待されて戻ってきた。范雎は旅をして変わった。范雎は季の足を必ず治す、それができなければ青雲へ向かって飛び立つ翼は授からぬと言った。范雎は吟尼と再会し、季に効く薬がないか相談した。吟尼はあるが高価だといった。范雎は身を売って金を作る、奴隷になるというと、吟尼は耳寄りな話がある、魏の中大夫の須賈(すか)が家臣を増やすことになったという。須賈は明後日斉へ行くので斉に旅の経験もある范雎も同行することになった。急な話のため、范雎は鄭兄妹に別れを告げられに斉へ向かった。范雎が旅立った後に鄭兄妹は経緯を聞いて涙した。須賈の役目は魏と斉の国交の修復である。君王后の侍女の南芷が范雎の下に逃げ、范雎は南芷を匿った。南芷は荘辛の娘だった。南芷を探している男たちの中に比伝がいた。比伝は門番から昇格していた。比伝は范雎を襄王に会わせ、范雎に襄王に仕えるよう誘うと、范雎は応じた。須賈が急に魏に帰ることになった。理由はわからない。范雎は鄭安平と季に会うために戻りたかったが、斉の襄王がわざわざ使者をつかわして礼物を授けようとした。須賈は范雎が機密漏洩を行った見返りに礼物を受け取ったと誤解した。須賈は范雎が機密漏洩をしたと宰相の魏斉に告げた。魏斉は范雎を笞で打ち半死半生になり気絶した范雎を厠室に放り込んだ。張儀ですら味わったことのない屈辱を感じた范雎は魏斉への復讐を誓った(丘の上の雲、春の月、石のぬくもり、仕官の日、仙人の秘薬、月下の美女、頭上の天、ひそかな会見、恥辱の夜)。