青雲はるかに《上》(その2) 宮城谷昌光

平成19年4月1日発行

 

何介(かかい)が厠室から范雎を救い出したため、魏斉が范雎の死体を探索するものの見当たらなかった。魏斉は王が病に倒れたということが斉に漏れることを恐れていた。范雎はその後原声に助けられて原声の手伝いをしていた夏鈴に看病された。原声は魏斉の妾になっていたため范雎は涙した。然るべき官位を得たら妻に迎えようと思い描いた未来が無残に引き裂かれたからだった。范雎は別の場所に移された。捜索は数ヶ月続いたが、魏の昭王が薨じたため中止された。左近は鄭安平を訪ね、范雎の身に起きた凶事を伝えた。范雎は南芷に匿われていた。南芷がいるのは魏の貴族の家だった。魏斉への復讐のためには魏斉の上に立つ必要があった。范雎は鄭安平と季に再会した。季は杖を持たずに歩けるようになった。足は治っていた。范雎は自分の命運が必ず啓けると確信した。范雎は一切を鄭安平に話した。張叔と名を変えた。左近が鄭安平邸を訪ね、季を妻にしたいというが、鄭安平は応じられないと拒絶し、公子無忌に仕えられたら考えてやろうと言った。南芷が父の荘辛に強引に陳へ連れて行かれた。陳は魏と楚の国境に接している邑だった。荘辛は楚王のもとに戻ったのだと理解した范雎は、南芷の遺した書き置きのとおり、東郭の劉延子を訪ねることにした。劉延は古学で一家を立てていた。范雎はこれまでは法家の論説によろこびを見出していたが、ちかごろでは無用の用を説く道家の書物でさえ読めるようになった。劉延の妻は隹瑤、弟は隹研といった。隹研が良からぬことを企んでいるようで、隹瑤が范雎に逃げるように告げたため、范雎は逃げた。しかし実際には隹研は范雎に神気を感じていた。劉延は隹研に范雎に仕えてはどうかと勧め、隹研は范雎を追い掛けた。范雎はある別邸に逃げ込んでいた。別邸の夏鈴は范雎と気付いていなかったが、そこに原声が現れて范雎に気づいたため、范雎は別邸から去り北を目指した。龍首家に鄭安平がいたためだ。途中で須賈の臣だった左近に襲われたが、そこを隹研が助けた。隹研は范雎に連れて行ってほしいと頼んだ。龍首は甘安という商人の家を用意し、鄭安平はそこで待っていた。家には甘安の妻先恵と娘哥がいた。そこに主君を信陵君に切り替えた左近が訪ねて鄭安平に報告に来た。信陵君とは無忌のことで、愛情が豊かで、士の身分の人にも腰や辞を低くし、漢の時代には孟嘗君より高名になった。吟尼が再び目の前に現れた。范雎は吟尼から原声が魏斉の妾になった理由を聞いた。秦軍の宰相魏冄は魏に侵入し、須賈は大利を献ずると述べて魏冄への説得に当たろうとした(幽霊の境、孤独の翳、夢幻の鳥、雪の一夜、冬の足跡、陰伏の時、秘話、開かぬ門)。