元彼の遺言状 新川帆立

2021 年 10 月 20 日第 1 刷発行


第 19 回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。

 久しぶりにこのミスシリーズを読んだ。大賞受賞作だけあってエンタメとしてまずまずの面白さがある。作家になるために弁護士となったという異色の経歴の持ち主だが、作品の内容はさすがに弁護士らしく法律の議論をある程度踏まえたものとなっているようだ。もっともかなり誇張もあるようで小説を参考にせずに実際に困ったことがあったら本書を参考にせず弁護士に相談するようにとアドバイス付きなので、内容を鵜呑みにしてはいけない。
 さて、ストーリーとしては、前半で、大手製薬会社の御曹司が、私を殺害した犯人に財産を譲るといった遺言書を書き、御曹司が亡くなったことで、次から次へと殺人犯と名乗る者が現れ、主人公の剣持麗子は御曹司にインフルエンザをうつした男から自分が犯人だと言われ、その依頼で犯人選考会に臨む。このあたりは現実離れしていて、この先どうなることやらと正直思った。
 しかし、この遺言者は、犯人が特定に至らない時は財産は国庫に帰属するともなっていたため、このような遺言書を書いた御曹司の本当の狙いが何なのかは後半になって初めて明らかにされる。同時に、御曹司は、実はインフルエンザではなく、大手製薬会社の開発中の薬剤の副作用で死んだ可能性が出て来て、それが自分で射ったものか、はたまた他人が射ったものか、どちらとも言えない状況になってくる。そんな中で、もし他人が射ったとしたら誰が射ったのか。その流れの中で、遺言を執行するための弁護士が殺害されたり、遺言が保管されていた金庫が盗難にあったりと、次々と様々な事件が起きる。そして一体誰が何のためにこんな事件を次々と引き起こすのかというテーマにいつの間にか切り替わって物語が進む。
 ところが、最後の最後で、切り替わったと思ったテーマと得体のしれない内容の遺言書を御曹司がなぜ書いたのかという2つが見事にミックスされて、ストンと落ちる。

 そんなミステリーの王道に戻る手法は見事で、読んでいてなかなか爽快感があった。映画化される予感大である。