氷壁(上) 井上靖

1997年10月20日発行

 

登山家の魚津恭太は穂高を一人で登った帰り、登山仲間の小坂乙彦に会う。そこに人妻の八代美那子が訪ねてきた。魚津はその場を立ち去ったが、八代が魚津を追いかけてきた。一度関係を持った後、魚津が言い寄って来て困るので、それを自分の口から伝えても変わらないため小坂から言って欲しいと頼まれ、承諾する。八代を送ると、八代教之助の表札の出ている大きな家の前で別れた。人名録を見ると、東邦化学専務で30歳近く歳の差があることを知る。仕事の昼休み時に小坂と会い、八代の言伝を伝えるが、小坂は彼女は自分を愛している、彼女なしで生きていられないなどという。話を打ち切り年末年始の登山計画の話をして別れる。八代宅に小坂を連れて魚津が訪れ、これで最後にするために3人で会う。年末に魚津と小坂は穂高に登る。吹雪の中、登頂寸前で小坂が滑べり落ちる。二人を結ぶナイロンザイルが切れたからだ。八代が突然妻に小坂とどういう関係かと尋ね、付きまとわれて厭だ、嫌いだ、お付き合いしたくないと答えると、新聞を見てごらんという。必死の捜索が行われたが小坂は見つからなかった。ナイロンザイルが切れて転落したのは間違いないのに、新聞では「ナイロンザイルは果たして切れたか」と報道していた。切れるはずがないという。ナイロンザイルを造っている佐倉製鋼の社長は魚津の勤める会社の大株主だ。ザイルの操作上に欠陥があったかもしれないと魚津に発表せよとの圧力がかかる。魚津は休暇を取って小坂の実家を見舞う。佐倉製鋼はザイルが切れることはないと主張し公開実験するという。それならば魚津が切ったのか、それとも小坂が自ら切ったのか?