鳴門秘帖(二) 吉川英治

1989年9月11日第1刷発行 2018年3月27日第27刷発行

 

裏表紙「隠密の掟ゆえに、お千絵と弦之丞の恋は許されようもない。といって、お千絵に執拗につきまとう旅川周馬の邪恋は迷惑至極。弦之丞も家を捨て恋を捨て、一管の竹に漂泊の旅を重ねるが、お千絵への思いはきっぱり絶っているだろうか。その弦之丞に、阿波二十五万石の存立にかかわる隠密の命令が下る。無論、阿波藩士が手を拱いて待っている訳がない。弦之丞を取り巻く蜘蛛手の網。」

表紙裏「花といえば、あでやかな大輪よりも、ひっそりと野に咲く可憐な花、それが主人の好みでございました。なかでも、りんどうは、その青紫の花弁の初々しさと、清楚なたたずまいを、ことのほか愛でていたようでございます。瀟洒な文庫本に、りんどうの花、主人も、きっと、気に入ってくれることと存じます。吉川文子」

 

周馬の屋敷の火事騒ぎの際にお千絵を助け出したのは常木鴻山だった。松平輝高は鴻山を通じて万吉や弦之丞の協力を得て阿波の禍根を断つことを企図していた。そこに輝高の懐に掏摸を働いたお綱を捕まえ、お綱に事情を打ち明けて協力を求めて弦之丞の居場所を聞き出し、遂に弦之丞に隠密の命が下り、一人阿波に向かう。お綱の父親が今際の際にお綱に託した刀と書置きを見ると、お綱はなんと世阿弥の娘だった。万吉はお綱と一緒に阿波行きを決意する。

阿波の剣山の牢に閉じ込められた世阿弥は厳重な監視の中で生きていた。阿波に連れてこられたお米は森啓之助を騙して弦之丞逢いたさに大阪に戻る。大坂で弦之丞に追いついた万吉とお綱だが、万吉は女房のお吉に会いに一度家に帰る。するとそこで見張っていた一角・周馬・孫兵衛に斬り付けられる。2人切りとなった弦之丞はお綱の事情も恋心も知ったうえで阿波に向かうべきか悩む。斬られた万吉が源内の処置を受けて一命を取り留める。お米を阿波から大阪に戻る際について来た中間宅助が一度は逃げられたお米を見つけてとっちめようとしたところに弦之丞が偶然現れ、お米の恋心を利用して再び阿波に戻ることを約束させる。万吉を置いて阿波へ行く準備を進めざるを得ない弦之丞だった。