鳴門秘帖(一) 吉川英治

1989年9月11日第1刷発行 2018年3月27日第27刷発行

 

裏表紙「他国者は容易に近づけない、密国阿波に潜入した幕府隠密・甲賀の宗家、世阿弥が消息を絶って10年。家名の断絶を目前にして、悲嘆にくれる娘のお千絵を見かねて、2人の男が阿波渡海をはかった。だが夜魔昼魔、お十夜孫兵衛、見返りお綱が2人の邪魔に入る―。昭和初年大衆文学の興隆期に発表され、人気沸騰した名作『鳴門秘帖』は争って読まれ、虚無僧姿の法月弦之丞は銀幕のヒーローに。」

表紙裏「花といえば、あでやかな大輪よりも、ひっそりと野に咲く可憐な花、それが主人の好みでございました。なかでも、りんどうは、その青紫の花弁の初々しさと、清楚なたたずまいを、ことのほか愛でていたようでございます。瀟洒な文庫本に、りんどうの花、主人も、きっと、気に入ってくれることと存じます。吉川文子」

 

阿波入国を図った銀五郎は、警備に集った天堂一角らに襲われる。銀五郎を救出した弦之丞だったが、銀五郎から江戸に帰ってお千絵を救出して欲しいと懇願されるが、躊躇う弦之丞の姿を見て絶望した銀五郎は自らの命を差し出した。その男気に感じ入った弦之丞はお千絵救出を誓う。一方、自らの密談を聞かれた阿波守は弦之丞の討ち取りを一角に命じる。

江戸に戻った万吉が甲賀世阿弥邸を訪れるが、10年不在のため断絶の命が下され周馬の門札になっていた。周馬の屋敷に身を隠していた女スリ見返りお綱だったが孫兵衛から執拗に追い求められお綱は拒み続けた。周馬の屋敷には千絵が隠されており周馬は千絵を求めていた。弦之丞は孫兵衛にとっても周馬にとっても恋敵。周馬はこいつを殺せばお綱を引き渡すと約束してその段取りを付けようと、お綱と千絵を屋敷に置いて飲みに行く。2人は壁一枚隔てられた部屋に押し込められていたがお綱が匕首の刃で壁を破り遂に屋敷を抜け出そうとした時、屋敷にある甲賀の宝物を周馬に渡したくないために火を放った。屋敷は炎上し、二人は命からがら逃げだす。一旦は周馬と孫兵衛に捕まるが再び隙を見て逃げ出したのがお綱。弦之丞が江戸に戻れない理由は甲賀の掟のためだった。弦之丞を江戸まで追い廻してきた一角と孫兵衛が偶然に出会い、二人の目的が弦之丞であることを互いに知るや手を握って弦之丞を付け狙う。