埋もれ火《下》

2011年12月10日発行

 

「泥中の花」

庄内脱藩の浪士堀井達三郎は、雪の日に清河八郎の妻お蓮が男とぶつかって倒れたところに手を差し伸べて以来、清河の妻お蓮に恋慕し、清河への嫉妬心を抱え、清河に対する劣等感に苛まれる。獄中のお蓮を救うため、あれこれ動いた堀井だったが、お蓮は死んでしまった。

 

「お慶」

熊本藩士遠山一也が、大浦屋の慶を再度訪ねてきたのは、明治4年のことだった。大浦屋お慶は、長崎にかつての賑わいを取り戻そう、かつて愛した荒井十次郎も関わっていると一也が言って持ち込んだ異国との煙草の取引に関わった。ところが一也は熊本支配頭の名前を勝手に使っていた。裁判でも負けた慶だが月割りにしてでも払うものは払うという。女だてらにと言われたくない一心で。

 

「炎」

赤間関で廻船問屋を営んでいた小倉屋白石正一郎は、西郷隆盛の炎に巻き込まれ、小倉屋の財産を使い果たし、死んでいった。薩摩から出て来た藤代亨は、妻の加寿から、でも巻き込まれてよかったと思っている、後悔していないと微笑みながら、若い亨に向かい語る。

 

「呪縛」

高杉晋作の愛妾だったおうの。高杉晋作の墓を守るおうのは、飲みたい気持ちを我慢をがまんできずに、一升徳利を抱えて酒を買いに出かける。井上馨が外務省の役人を遣わして金を渡し東京に出てくるよう説得するが、おうのは残りの歳月も晋作のためにここで費やそうとした。