天下布武 夢どの与一郎《三》 安部龍太郎

2013年12月10日発行

 

荒木は有岡城を捨てて自分だけ逃げ出した。新八郎は信長に与一郎を通じて父の説得もしくは父の首と引き換えに、荒木に嫁いだ範子を始めとする助命を願い出た。与一郎(長岡忠興)がそのことを信長に報告すると、信長は火薬入手を邪魔したのはスペインだった、日本でのキリスト教布教はポルトガルに認められていたのに、信長を退け毛利に利するためにスペインが応援していたと与一郎に教えた。新八郎の申出を受けることを信長に命じられた与一郎は有岡城に入り、有岡城に監禁されていた黒田官兵衛を救い出した(第8章 盟友再会)。

尼崎城にいる荒木を説得するために新八郎、与一郎らが出向き、一度は説得に応じた荒木だったが、用捨一揆の中にいるくノ一梔子が土壇場で荒木の心を操り、自らの保身のみに荒木を走らせ、このため信長は有岡城に残った122人の妻子と512人の侍女や若党を焼き殺した(第9章 尼崎城の戦い)。

信長はイエズス会巡察師ヴァリニャーノを丁重に迎えた。自らが日本の実権を掌握しており、天皇の臨席をいただいて軍事パレードを行うことで毛利討伐の大義名分をアピールするためだった。ヴァリニャーノには荒木謀叛の際に火薬輸入が止められそうになった際にスペインを動かしてポルトガルの武器商人に圧力をかけてもらったという借りがあった。当時スペインはポルトガルを併合し太陽の沈まぬ国となっており、イエズス会東インド巡察師ヴァリニャーノが今後信長と取引を続ける上で何を求めてくるかを信長は考えていた。イエズス会東インド管区はアフリカ南部の喜望峰から極東日本に及び、ヴァリニャーノの父は枢機卿大司教だった。ヴァリニャーノは信長に交易を続けるならば日本との貿易を独占させることと軍事同盟の締結を求めた。同じカトリックイエズス会フランシスコ会犬猿の仲にあり、フランシスコ会は足利や毛利に軍事的経済的支援を行って信長を滅ぼすことを狙っているのだから、イエズス会と手を結ぶことを信長に求めていた。信長は交渉を継続することにし、左大臣に任じられた(第10章 ヴァリニャーノ来る)。

 その一方で、荒木は一族を皆殺しにされた復讐の鬼となり、由良左門とともに朝廷の要人と密かに会い、スペインとの間で盟約の密談を交わしそうとしていた。そのことを少しでも耳にした者たちが次々と殺されていった(第11章 影の密約)。