薔薇盗人3⃣ 浅田次郎

2003年8月30日第1刷発行

 

ひなまつり

 2月の末、小6で間もなく中学生になる弥生が一人で留守番をしていた。母は水商売で働き、いつも一人でお留守番。前に隣の部屋に住んでいた吉井さんが訪ねてきた。雑誌の付録でお雛様を組み立ててくれた。弥生はこんな人がお父さんだったらいいのになあと思う。父のことは何一つ知らない。吉井さんが父のことを調べてくれて、名前や仕事を少しだけ教えてくれた。いつもあれこれ気をかけてくれる吉井さん。母は36歳、吉井さんは24歳、弥生は12歳。弥生が成績がよくて大塚付属に合格できる力があったのにお金がなかったので別の学校に行かざるを得ず、そこから国立大を出て医者を目指していた。吉井さんが交通事故に遭った。幸い、命に別状はなかったが、弥生は母に「お願いがあるの。私にお父さんをください」と訴えかけた。お母さんと吉井さんの後ろ姿を優しく押す弥生が可愛い。

 

薔薇盗人

世界一周中の豪華客船のキャプテンをつとめる父親に宛てた小6の男の子の手紙が何通か綴られている。学校に出す作文では、詳しく家族のことが書かれているが、父親に宛てた手紙が多い。担任の先生の家庭訪問の時間が我が家だけ長かったことや、男の子に恋人が出来たこと、父親に頼まれて薔薇の手入れを一生懸命にしているのに薔薇が盗まれてしまったことなどを辞書を引きながら英語の勉強をかねて詳しく綴っている。その中で、男の子は自分と恋人との関係が周囲に迷惑をかけていると勘違いして父親に一生懸命説明しているが、要するに担任の先生と生徒の母親が親密な関係になり、その母親と先生がいなくなったということを書いている。もっとも男の子からさんざん手紙を貰っていても、父親から一通も返事がないのはどうにも不自然のような気がします。