暗夜行路 前編 志賀直哉

1938年3月15日第1刷発行 2004年5月18日改版第1刷発行 2017年5月15日第11刷発行

 

表紙裏「祖父と母との不義の子として生まれた宿命に苦悩する主人公時任謙作は、単身、尾道に向い、千光寺の中腹の家を借り、一人住いを始める。しかし、瀬戸内海の穏やかな風光も、彼の心に平安をもたらさない。長年月を費やしてなった志賀直哉唯一の長篇。(全二冊)」

 

謙作は幼馴染の愛子にプロポーズするがとん挫する。放蕩を繰り返すうちに次第に自己嫌悪に陥っていく。謙作は小さい頃に祖父の家に預けられて育ったが、その家に下女として働くお栄をいつの間にか愛していることに気付く。年齢は二回りほど上でしかも祖父の妾だったお栄。お栄への気持ちを見つめ直すため単身で尾道へ行く。自分の気持ちが本物であると知った謙作は手紙で兄の信行宛てにお栄との結婚を望んでいると知らせ、兄からお栄に伝えてもらいたいと頼む。数日後、兄から返事が届くが、謙作の出生の秘密を知らされることになる。それは謙作が祖父と母との間に生まれた子であるという信じがたい事実であった。祖父と思っていたのが間違いで実の父親が妾としていたのがお栄で、その女性と結婚したいという謙作の意見には賛成できないと返事だった。謙作はお栄との結婚をもう少し考えると伝えた。その後兄から再度手紙が届く。兄は父にお栄と結婚したいと謙作が考えていることを明かすと父が激怒したことを知らされる。謙作は兄にも父にも憤りを感じ、尾道を引き上げて帰っていく。その後、お栄とは結婚の話に触れることなく再び遊郭通いを始める。

 

何ともショッキングな設定だが、謙作が兄から真実を伝えられるまでが少々もたついていて眠くなる。タイトルの由来は恐らく次の一文ではなかろうか。

「祖父と母と、そしてまた、祖父の妾と自分と、こう重なって行く暗い関係が何かしら恐ろしい運命に自分を導きそうな漠然とした恐怖が段々心に拡がって往ったのである」