李王家の縁談 林真理子

2021年11月25日第1刷発行 2022年2月1日第4刷発行

 

帯封「世間をも巻き込んだ、ご成婚宮廷絵巻 いつの時代も高貴な方々の結婚はむずかしい-皇族華族の内面をこれほど正確に描ききった小説は読んだことがない。傑作である。歴史学者 磯田道史」「宮家の妃が娘のために奔走した縁談の内幕とは?『こうなったら、まあさんのお相手をすぐに決めなくてはなりませんね』方子は14歳になるが、婚約するのに決して早過ぎることはない。皇族の娘は生まれ落ちた時から、配偶者を探し始めるのが常である。しかしもしかしたら皇太子妃にという輝かしい枷が、梨本宮家の動きを鈍くしていたのである。伊都子は再び頭を働かす。あの宮家、あの侯爵と親の顔と息子たちの年齢を思い浮かべる。(本文より」

 

「梨本宮伊都子妃といえば、美しいだけでなく聡明で率直なことで知られている」で始まる本作は、佐賀藩主だった鍋島家のお姫さまだった伊都子が主人公。父・直大がイタリア特命全権公使としてローマに駐在している時に誕生し、イタリアの都で生まれ、伊都子と名づけられた。10歳を過ぎた頃からいくつか縁談が持ち込まれ、梨本宮守正との婚約が調う。長女・方子(まさこ)、次女・規子をもうける。ある日、母栄子から皇太子妃が久邇宮良子(ながこ)女王に決まったと教えられる。皇太子とは裕仁親王(のちの昭和天皇)である。良子の父・久邇宮邦彦は、梨本宮守正の兄。方子と良子は従姉妹になる。韓国の純宗(スンジョン)皇帝の弟で、日本に留学中の朝鮮王朝王世子李垠(イウン)は18歳、日本の皇族と同じ地位を約束されていた。「他国といえども皇太子なのだ。裕仁殿下と同じ立場なのである。『これならば方子にみじめな思いをさせることはないかもしれない』」と伊都子は考えた。問題は、この話をどうやって進めるかにあった。嫌がる方子を国の為と説得して嫁がせる。長男晋が誕生し喜ぶ方子と王世子。だが、未来の王を待ち焦がれている朝鮮の人々の前に姿を現さざるを得なかった王世子と方子と晋だが、晋は急逝。恐らくは毒殺。

妹規子の当初のお相手として、震災で妃を亡くした山階宮武彦が選ばれ、伊都子は準備を進めるが、武彦王の体調は戻らず破談となる。早く動かなければ傷物扱いされると考えた伊都子は、広橋真光伯爵との結婚話を進め、破談のわずか5か月後の早技だった。秩父宮妃に規子の従妹節子(勢津子)が選ばれる。身分では規子の方が上なのにと伊都子は口惜しがる。

伊都子は方子の夫王世子の妹徳恵(トケ)と宗武志伯爵との縁組をすすめ、二人の間には女児が誕生するが、徳恵は再び精神に異常をきたす。方子は玖をもうけ、伊都子から義妹の徳恵のことを気に掛けるように諭されるも、玖にかかり切りになりそこまで気が回らない。

皇后は皇太子(明仁親王)を出産し、サイレンが2度鳴り、大勢の市民が万歳三唱する。

昭和9年満州国に帝政が敷かれ溥儀が皇帝となる。戦争に突入した日本の十一宮家は敗戦後に平民となり、重い財産税のため財産を失う。伊都子が勧めた宗と徳恵は離縁し、養子縁組した佳子と李鍵との間に誕生した子を巡って裁判沙汰に。玖はアメリカにわたりアメリカ人女性と結婚。時代は次々へと変わっていき、最後に皇太子が見初めた民間の娘の記者会見が開かれ、気品と知性に溢れた美智子妃がテレビに現れる。「朝から婚約発表でうめつくし、憤慨したり、なさけなく思ったり、色々。日本ももうだめだと考へた」と日記に綴られる。

 

皇族という身分というものについて、ほとんど考えたことがなかったが、本当に大変な世界だな、としか言いようがないですね。