天才 石原慎太郎

2016年1月20日第1刷発行 2016年5月20日第12刷発行

 

確か、結構売れた本だったと思う。石原氏が一人称でこれを書くこと自体、少々違和感があったが、読んでみて内容的にも強い違和感を持った。田中寄りに書かれているのは仕方ないにしても、ロッキード事件で5億円が賄賂だと認定された司法判断は誤ったものであるかのように書かれているが、果たしてそうなのか。勿論、田中角栄は政治家として有能であっただろうし、苦労もしたであろうし、努力もした稀代の政治家であったとは思う。が、一方で金権政治の大元を作ったのも田中角栄であるというのもこれまた歴史的事実ではないか。田中角栄の個人的な私生活、特に正妻とは別にお妾さんとの間に設けた子どもたちのこの本での登場のさせ方は可哀想に思う。また日本列島改造論のとおりに日本が豊かになり狭い国土が有効利用されていく過程はダイナミックだったと思うが、その傍らで安い土地を沢山取得してそれが値上がりして莫大な金を手にし、それを元に選挙に勝つために一人3000万円を配ったという話は有名だけれども、常識外れもいいところ。それを手放しで政治とはそういうものだから仕方ないのではないかと思わせるように書いている著者の感性なり神経が信じられない。田中角栄の周辺人物や時代状況から色々な人物を登場させているが、いずれも断片的な取り上げ方であるし、偏見も混じっているようにも思う。

私はこの本を評価する気にはなれない。そんな予感がしたので、この本は買わずに図書館で借りた。