大地 パール・バック 大久保康雄・大蔵宏之訳

1968年1月初版発行 1990年8月第25刷発行

 

 貧農の子として生まれ、勤勉で何よりも土地を愛して大地主となる主人公の王竜(ワンルン)。阿藍(オーラン)は村の大地主黄家の奴隷の身から王竜の妻としてもらわれ、無口だが、性根のしっかりした働き者。王竜は当初はよく働き所有地を広げて少しずつ金を溜め、子も次々と生まれる。阿藍は誰の助けを受けることなく一人で出産し、産んだらその日から働き始める。それを当たり前のように繰り返す。凄まじい女性。

 ある年、雨が全く降らず、作物が全くできず、食べる物もなくなり、餓死寸前で南に移動して新生活を始める。と言っても王は車引きをして僅かな日銭を稼ぎ、阿藍は乞食をしてその日暮しをする。貧富の格差が激しく富裕層が襲われた際に思わぬ財産を手に入れて王夫妻は自分たちの土地に戻り、土地を買い増しして地主となっていく。王は次第に使用人を雇い自分で土地を耕かすことがなくなり、金が溜まると堕落して家に美しいホステスの蓮華(リエンホワ)を囲い、第2夫人として迎え入れる。黄家の老大人つきの女奴隷の抜け目のない杜鵑(ドチュエン)は蓮華の召使として王家に入り込む。そんな中、阿藍と蓮華・杜鵑の関係はどんどん悪化し、王の家は決して幸福とは言えなくなってくる。蓮華への愛欲を断ち切るため、王は再び自ら土地を耕し仕事に精を出す。

 王は自分が読み書きができないので、息子には教育を授けようと勉強させる。結婚適齢期になると、王は長男の嫁探しに悩み、気づくと長男が蓮華と関係を持ったため、長男を家から追い出す。阿藍は医師も治せない重病となったが、長男の結婚を見るまでは死ねない、この目で結婚を見届けたいと願って、家を追い出された長男が2年後に家に戻り結婚すると死んでしまう。王の父もほぼ同時に死ぬ。王の目の上のたん瘤だった叔父とその妻と息子は王家に住みつくが、叔父の息子が王の長女に色目を使うようになると、まだ13歳の長女を、商人にさせようと奉公させた次男が勤める取引先の穀物商店に嫁入りさせるとともに、家を守るために、叔父家族には大枚をはたいて阿片を覚えさせる。それでも叔父家族を嫌う長男から、彼らと同居するのに耐えられない、老大人のかつての屋敷に転居しようと言われて心を動かされ、かつて老大人の前に立つだけで気後れしていた自分が立場を逆転させてこの屋敷に住めることにおおいに自尊心を満足させて転居する。賢明に育った次男にも嫁を見つける。長男の嫁が無事子を産み、3代目が誕生する。ところが嫁は自分で子を育てず乳母を雇う。浪費家の長男と倹約家の次男は対立し、父親の王はどっちつかずの態度を続ける。王は長男と次男には学校で教育を受けさせ、農家を継がせるつもりだった三男が、実は自分も農家ではなく勉強がしたいという。なかなか親の思い通りに子は育たない。それでも大勢の孫に囲まれて幸せな老後を過ごす。叔父夫婦は阿片ですっかり体を壊して死んでいく。晩年、王は以前憐れんで買い取った女奴隷の梨華(リホウ)を可愛がる。知恵遅れの娘の面倒を見てくれるようにとも頼む。いざとなったら白い包みに入った毒薬を飲ませて殺してくれとも。最晩年、王はやわらかい土をいじり、幸せを感じる。長男と次男が土地を半分ずつ売って分けようという会話が聞こえると、王は二人を怒鳴り付ける。それを聞いて長男と次男は土地は売りませんと微笑しながら答えて、この物語は終わる。

 土に生き、土に帰っていく農夫の、平凡でありながら、人間として生きていくということはどういうことか、人生には様々な浮き沈みがあるが、果たして人としての幸福とは一体何かということを考えさせる小説である。1938年、パール・バックはこの小説でノーベル文学賞を受賞する。22歳で中国にわたり宣教師の妻として辛酸をなめつした作者だからこそ書けた作品だろうと思う。