家康、江戸を建てる1⃣ 門井慶喜

2017年5月31日第1刷発行

 

第一話「流れを変える」は、豊臣秀吉から、北条家の旧領・関東8か国、二百四十万石をそっくりさしあげようと言われたところから始まる。その真意は、湿地が広がる土地と、家康の所領であった豊かな駿河遠江三河、甲斐、信濃とを交換しようとするものであった。家康の家臣たちが激怒するが、家康は要求をすんなり受け入れる。家康は伊奈忠次に命じて利根川の流れを変えることを考えていた。利根川は、以前は江戸湾に流れていたが、その流れを東に変え、まずは渡良瀬川との合流工事を行った。更に常陸川に結び鹿島灘の銚子に流れるよう東遷事業を行った。忠次と次男忠治、孫の半左衛の親子三代で成し遂げた事業だった。このように川を曲げることによって、何もない関東の湿地帯が、見事な江戸の町に作られていった。主人公の伊奈忠次の長男熊蔵に語る言葉“臆病者のふりをせよ”は、能ある鷹は爪を隠す、の言い換えだろう。

 

第二話「金貨を延べる」は、金座・銀座の設立に携わった橋本庄三郎は、太閤の貨幣鋳造役の後藤家の使用人に過ぎなかったが、家康の目に留まり、家康に命じられて小判を鋳造するために後藤家の猶子となって後藤庄三郎となる。秀吉時代には大判の金貨しかなかったが、家康は江戸の町で品位(金の含有率)の良い小判を鋳造することで江戸の町を日本の経済の中心とすることを考えて家康は小判の鋳造を命じた。家康が庄三郎に語る台詞“へりくだる人間は仕事もへりくだる。おのれを恃め”は、己を信じよ、信じるに足りる己となるよう己を磨けという意味だろう。