声に出して読みたい日本語③ 齋藤孝

2004年4月30日第1刷発行

 

一、腹から声を出す

  「絶景かな、絶景かな、春の眺めは」 【歌舞伎】楼門五十三桐 初代・並木五瓶

  「にくいあん畜生は紺屋のおろく」 紺屋のおろく 北原白秋

  「当たり屋のおでん、あたり屋のおでん-」 【物売りの声】

  「事のついでに問い申さん。サゝ、なんと〱」【歌舞伎】勧進帳 三代目・並木五瓶

  「やは肌のあつき血汐にふれも見で」 みだれ髪 与謝野晶子

  「とほくへいってしまふわたくしのいもうとよ」 永訣の朝 宮沢賢治

  「今にてもあれ鎌倉に御大事いで来るならば」 【謡曲】鉢木

  「白髪 三千丈/愁ひに縁りて 箇くのごとく長し」 【漢詩】秋浦の歌 李白

  「余は石見人森林太郎として死せんと欲す」 【遺言】森鴎外

  「鬼瓦を見たれば、しきりに女共がなつかしう」 【狂言】鬼がはら

  「しがねえ姿の、横綱の土俵入りでござんす」 一本刀土俵入りほか 長谷川伸

  「それがねえ/まだ一人も海にとどかないのだ」 崖 石垣りん

二、人生のおかしみを味わう

  「合点して居ても寒いぞ貧しいぞ」 小林一茶

  「災難に逢時節には災難に逢がよく候」 良寛

  「さあ、かぎ賃だから、音だけ聞いて帰れ」 【落語】しわい屋

  「這へば立てたば歩めの親心」 【川柳】江戸川柳

  「まっすぐな道でさみしい」 種田山頭火

  「夏の間に歌舞飲食する者は冬に至りて餓死ぬべき」 蟻と蝗の事ほか 福沢諭吉

  「遠くて近きもの 極楽。舟の道。人の中」 枕草子 清少納言

  「せんみつゝといふも、よい事ではあるまいの」 【軽口】べらぼうを知らぬ事

  「此頃都にはやる物、夜討、強盗、謀綸旨」 二条河原落書

  「鳥毛虫の、心深きさましたるこそ心にくけれ」 堤中納言物語虫めづる姫君

三、芯が通る・腰肚を据える

  「思い切って野に下り候。・・・只やる丈やる而已に候」 【手紙】 夏目漱石

  「渾身もとむるところなく、活きながら黄泉に陥つ」 【辞世の詞・歌】 道元ほか

  「最も好い好意と同情と愛情のこもった手紙です」 【手紙】 岡本かの子

「君の位置からの それが/最もすぐれた姿勢である」 位置 石原吉郎

獅子身中の虫とは汝のこと」 【歌舞伎】仮名手本忠臣蔵 竹田出雲ほか

「自ら反みて縮ければ、千万人と雖も吾往かん」 孟子 孟子

四、リズム・テンポに乗る

「るてえる ぴる もれとりり がいく」 ごびらっふの独白 草野新平

「始めちょろちょろ、中くゎっくゎっ」 【ごはん炊きの歌】

「牡丹に唐獅子竹に虎」「光るはおやじのはげ頭」 【尻取りことば】

「あなたさまのお尻さまをおつねりでござりたてまつる」 【落語】そこつの使者

すもももももももののるい」 【かさねことば】

「くわばらくわばら」「つるかめつるかめ」 【まじないことば】

「戀という字を分析すれば いとし、いとしと言う心」 【漢字を覚える歌】

「めでたゝの若松様よ 枝も栄える葉も茂る」 【民謡】山家鳥虫歌

五、しみじみ味わう

「人間をやめるとすれば冬の鵙」 加藤楸邨

「上の雪/さむかろな。/つめたい月がさしてゐて」 積もった雪ほか 金子みすゞ

「浪の下にも都のさぶらふぞ」 平家物語

「竹馬やいろはにほへとちりゞに」 久保田万次郎

「待てど 暮らせど/こぬふとを」 宵待草 竹久夢二

「大といふ字を百あまり/砂に書き」 石川啄木

「魂抜けてとぼゝうかゝ、身を焦す」 心中天の網島 近松門左衛門

佐渡へ 佐渡へと草木もなびくヨ」 【民謡】佐渡おけさ

六、あこがれに浮き立つ

「あれが阿多々羅山、/あの光るのが阿武隈川」 樹下の二人 高村光太郎

「はるののにあそぶあそびを/ふたたびはせず」 いにしへの日は 三好達治

ミラボー橋の下をセーヌ河が流れ」 【訳詞】ミラボー橋 アポリネール堀口大学訳)

「カチューシャ かわいや 別れの辛さ」 カチューシャの唄 島村抱月・相馬御風

「さらさらと、さらさらと流れてゐるのでありました」 一つのメルヘン 中原中也

「ねがはくは花の下にて春死なん」 西行

「童は見たり、野なかの薔薇」 【訳詞】野なかの薔薇 ゲーテ(近藤朔風/訳詞)

七、身体に覚え込ませる・座右の銘

「及ばざるは過ぎたるよりまされり」 御遺訓 徳川家康(伝)

「児孫の為に美田を買わず」 【漢詩】感懐(偶成)西郷南洲(隆盛)

「子曰わく、未まだ生を知らず。焉んぞ死を知らん」 論語 孔子

芥川龍之介君よ/君が自ら撰み自ら決したる死について」 【弔辞】 菊池寛

「横光君/君の骨もまた国破れて砕けたものである」 【弔辞】川端康成

「時に及んで当に勉励すべし/歳月は人を待たず」 一遍上人語録 一遍

「庖丁、文恵君の為に牛を解く」 荘子 荘子

「第一尋牛(第一に牛を尋ぬ)」 十牛図 廓庵禅師

八、季節・情景を肌で感じる

「菜の花畠に 入日薄れ、/見わたす山の端」 【唱歌】 朧月夜 高野辰之

「利根の川風袂に入れて 月に掉さす高瀬舟」 【浪曲天保水滸伝 二代目・玉川勝太郎

「春の名のみの風の寒さや。/谷の鶯 歌は思えど」 【唱歌】早春賦 吉丸一昌

「ちいさい秋 ちいさい秋/ちいさい秋 みつけた」 ちいさい秋みつけた サトウハチロー

「汽笛一声新橋を/はや我汽車は離れたり」 【唱歌鉄道唱歌 大和田健樹

「葛の花 踏みしだかれて、色あたらし」 釈迢空

「花のいろはうつりにけりないたづらに」 百人一首

九、物語の世界に浸る

「誰が何と言おうと、今はその戒を破り棄てる気でいる」 破戒ほか 島崎藤村

「龍華寺の信如が我が宗の修業の庭に立出る風説を」 たけくらべ 樋口一葉

「申し上げます。申し上げます。旦那さま」 駆込み訴えほか 太宰治

「月は晴れても心ア闇だ。・・・お蔦ッ、あの月を見な」 婦系図 泉鏡花/原作 室町京之介・二葉百合子/脚色

「清公。・・・もちっと奇抜なんを買わんかいな」 清兵衛と瓢箪ほか 志賀直哉

「お前さんは真先に私の肥料になったんだねえ」 刺青ほか 谷崎潤一郎

「昔、池の尾に、禅珍内供といふ僧住みける」 宇治拾遺物語

 

こうやって書き出してみると、まだまだ読んでいない古典・名作は一杯あると思う。

ゆっくりじっくり、でもサクサクと読んでいきたいと思う。