あだこ 山茶花帖(さざんかちょう) 山本周五郎

2005年4月13日第1刷発行

 

裏表紙「あだこの優しい心根が、人生を見限った怠情な男を立ち直らせてゆく過程を描く『あだこ』、逆境に生きてきた勝ち気な芸者と藩政改革の矢面に立つ若侍との障害を越えた愛を描く『山茶花帖』を収録。」

 

あだこ

小林半三郎は、食事をせずに餓死するつもりでいた。そこへ「あだこ」がやってきて、食物を借りてきて食事の支度をし、行くところがないので置いてほしいと云った。半三郎はいいが、何もしてやれないと云った。半三郎は、あだこが津軽出身だと聞いて、曾我十兵衛が津軽に国目付として行った際に自分の家を監視するために入りこませたなと思った。あだこはよく働き、半三郎の世話もよくした。あだこは、半三郎の許嫁者みすずが男と出奔し半三郎だけが不幸になり悔しいと言った。米屋の市兵衛から半三郎は驚くべき話を聞いた。あだこは十兵衛が送り込んだと思い込んでいたが、そうではなく、あだこは米も魚も何もかもそれらを借りるために手を抜くことなく労をいとわず掃除をし店の誰もがやらない仕事をしてその上であだこのために米を貸し出した。しかもあだこは賃縫いを夜中までやって針子の手間賃で少しずつ返銀しているというのだ。半三郎は十兵衛らの助力もあって役に戻った。自暴自棄な生活と別れを告げ、あだこに礼を言った。

 

山茶花

極貧の下で妹たちを育ててきた八重は10歳で料亭に奉公にゆき、13歳で芸妓になり客席に出た。三味線や唄・踊りはもちろん歌を詠み絵を描く八重は客に愛されるものの、仲間から妬まれ孤独だった。昔から持光寺の山茶花の絵を描いていたが、ある時、若い侍と出会う。それが後に家老になる新一郎だった。新一郎は八重を必ず迎えに来る、それまで信じていてほしいという。ところが対立する派閥から新一郎の弱みを握られまいと、新一郎の外伯父桑島儀兵衛は八重に新一郎と別れるよう頼む。それが新一郎のためであり、新一郎のことを思うならそうしてくれと言われ、泣く泣く八重は新一郎の前から姿を消す。八重は絹物問屋の隠居から養女に求められこれに応じた。山茶花を描いていると、そこに新一郎が現れた。この後、養女になる先を2度3度変えて中老の養女になった次に妻として迎え入れる計画を立てていたことを告げた。イ・サンのソンヨンが世子のためにイ・サンの前から姿を消し、清の国に絵を学びに行く姿と重なりました。ソンヨンは梅花を得意としていましたが、八重は雪のように白い山茶花が得意なんでしょうね。